ひさしぶりに勉強の話――同族会社だよ非公開会社!の巻

昨日、会社法を終わらせよう。
そう計画を建てたのに、まだ終わりません(泣)。


改正のおかげで、膨大かつなんでもありの会社法
その大半は株式会社のお話なわけで。


きめ細かく、色々と区別されて規律してあるのだけれども、最近になってだんだん会社法がわかってきたような気がしますわ。すわすわ。


日本の会社はほとんどが「株式会社」なわけだけれど、昔の「有限会社」が今は株式会社として一緒くたにされてしまった。
このおかげで、伝統的な株式会社の理解はますます不透明になってしまった。要するに、「大抵は株式会社で」ってな話なわけです。


伝統的な理解では、「大衆資本をかき集めてでっかい事業をやる」ってのが株式会社で、その合理的な資本集めの方法が「株式」ってやつで、つまり、みんなにこの株式を買ってもらって資金集めすると、そういうわけですな。


でも、現実は中小企業がほとんどなわけですね。すなわち、
「これおれの会社!」
ってな感じで、いつでも、だれでも、株式会社設立!なんて、コンビニ感覚で設立できる。それが今の株式会社なわけです(昔、1000万円必要だった資本金も今は1円でOK)。


そして、そんなちっちゃい株式会社は大抵、株式譲渡が自由にできないように仕組まれております。こんな株式を譲渡制限付株式なんていいます。
そして、こんな株式しか発行していない株式会社を非公開会社とかいいます。

これに対して、譲渡制限が付いていない株式を発行している会社を公開会社なんていいます。譲渡制限といっても、譲渡ができないというわけではなく、「譲渡制限」とは、譲渡について会社のOKが必要ということを意味しています。このOKがなければ株主になれない、ということでこんな会社を「非公開会社」というわけです。

この公開会社と非公開会社では、法の規律の仕方が変わっております。
条文には事細かに「公開会社でない場合…」なんて特則規定がいっぱい。もうヤになっちゃうくらいちまちま面倒くさいことを規律してやがります。

しかし、その規律のされ方にはちゃんと理由があって、その理由から同じような規律のされ方がなされていたりするわけです。
この理由から、公開会社の場合にはこうしないとな!という一定の予測が成立します。こういう「予測」が試験においてはとっても有効な武器になります。

「公開会社」と「非公開会社」の区分は、ただ譲渡制限付株式の発行しかしてない会社かどうかという事実に着目しただけではあまり意味がない。「あ、そう」で終了である。


ここで重要なポイントは、その現実的な意味合い。譲渡制限付株式のみ発行している非公開会社の実体とは何か?
これを知るだけで、会社法の条文における規律の仕方が「単純明快」になってきたりします。

ポイントとは、結論から言うと
1 譲渡制限が付いた非公開会社は、その実体は同族会社で、株主の交替によって会社的に好ましくない者が介入することを極力避けたいと考えているという性質を有すること
2 逆に、株式譲渡が自由の公開会社では、株主の交替は当然予定されており、その自由譲渡性を有する株式で資本集めを円滑に行える性質を有するということ
である。


例えば、非公開会社。
「株式に譲渡制限が付いている」ということは、現実社会において株式の入手が困難であるということを意味します。
譲受人「株主から株式を譲渡してもらったから、今日から俺が株主だッ!」
なんて、非公開会社に主張しても、
非公開会社「貴様への株式譲渡は認めない。金やるから俺(会社)に返せ」
と、言われたら終了。
譲受人「やぁだ〜」
なんてだだこねても、会社からこう言われたらダメ。株主にはなれない。
これが「譲渡制限」が付いているということの意味である。


そして、これが何を意味するのかというと、要するに
「なかなか簡単には株主になれね〜」
これが非公開会社の現実的意味合い。実体である。
だから、いつぞやのホリエモンのように、
ホリエモン「買収してやるぅ!」
なんて意気込んでも、その対象が非公開会社だったらほぼ不可能である。

話を戻すと、こういう非公開会社の実体を考慮すると〜〜の場合はこう規律しとかないとな!という配慮が法律でなされていることが無味乾燥な条文の文章において垣間見られるわけである。

例えば、新株発行の場合
非公開会社では、原則として、株主総会という全知全能の神的な存在による特別議決という手続を経ることが法で要請されております。つまり、非公開会社では、社長の島耕作も株主さまの了解がなければ新株発行できないことになっております。


他方、公開会社では、原則として取締役会という業務執行機関による簡易迅速な手続を経て、株主ではなく経営者の判断で新株発行ができることになっていたりします。

このような違いは、譲渡制限の有無で区別されているわけ。すなわち、
なぜ、非公開会社では、わざわざ株主総会という株主の了解がなければ新株発行ができないのかというと、譲渡制限が付いているからということになるわけ。
では、なぜ譲渡制限でそんな区別をするのか?
ここがミソ。
ちゃんと法は、非公開会社と公開会社の実体が違う点に着目した規律していたりするのである。


例えば、第三者に新株発行をする。で、Aさんが発行済株式100株のうち40株持っていたとする。ここではAさんの会社に対する影響力は40%ということになる。
三者に100株発行すると、Aさんの株式は40株のままにもかかわらず、100株分の40株から、200株分の40株となり、発行前と比べると株式保有率が半分になる。
すなわち、Aさんの株式の価値が40%から20%に株数が増えた分、薄まったということを意味する(専門用語的にかっちょよく言えば「持ち株比率の低下」とか言う)。
薄まったという意味は、この場合ではAさんの会社に対する影響力が従来と比べて低くなったということを意味するわけである。


ここで公開会社の場合、Aさんは誰かから株式を譲渡してもらうことによって影響力を回復させることができる。
これに対して、非公開会社では、誰かから株式を譲渡してもらっても、譲渡制限が付いているため、会社が譲渡についてOKしない限り、影響力の回復が望めないということになる。しかも、自由譲渡が認められていない株式をどこかで探し出し、しかも譲渡してもらうってだけでも大変だ。
こういった既存株主のAさんの利益に配慮して、株主総会の特別決議という重たい手続要件を法は課したのである。


これに対して、公開会社においては、既存株主は市場を通じて自由に株式を取得できるので、特別の配慮は不要という価値判断に基づき、それよりも優先させるべき利益に配慮している。
それは、新株発行によって得られる「資金獲得」という会社の利益である。第三者に株式を発行して買ってもらう。これによって、会社は借金をせずに金銭を獲得できる(借金である社債が「他人資本」であるのに対して、このように借金を背負わないでいい場合を「自己資本」と言ったりする)。なんてすばらしいシステムでしょう。
公開会社では、会社で資金需要が生じた場合、業務執行機関である取締役会等によって簡易迅速に資金獲得できるというメリットを重視したわけである(ただし、発行可能株式に関する「4倍ルール」なる制約はあるがこれはまた今度)。

こんな感じで、株式の譲渡制限の有無で会社の在り方がだいぶん変わるということがわかる。


このような非公開会社であるがゆえの理由で、非公開会社にはさまざまな「裏技」が法によって認められている。

例えば、株式会社制度において基本的な原則の1つに「株主平等の原則」なんてのがある。
それは、
「会社は株式の種類と数に従って平等に株主を扱えよ!」
って原則である。
つまり、1株100円の配当のケースでは、100株持ってる人には(100株×100円=)1万円の配当をするとか、とにかく株式を基準に考えて株主を取り扱うという意味である。

反対からいえば、株式に着目しないで、
「株主のにーやんだから100万円配当!」とか
「だっつぁんは株主だけど、それでもだっつぁんだから無配でいいや!」とか
「だっつぁんの議決権は認めない」
なんてことが許されていない。これが株主平等の原則の意味するところだったりする(個人的には、だっつぁんのものはにーやんのものだと思う)。


だがしかーし、この株主平等の原則も非公開会社では定款という会社の根本ルールを定める規則に定めることによって
「だっつぁんの議決権だけ認めない」
というルールが可能だったりする。よかったよかった。
これは株主平等の原則の例外を法が認めているということを意味する。


これも非公開会社だから、という理由。その理由とは、譲渡制限がなされている意味合いがもう1つあることに由来する。
非公開会社は、ほとんどが身内のみが全株式を持つという場合が多い(そのため、旧法下では非公開会社のことを俗に「閉鎖会社」と言ったりもしていた。)。
会社のトップである社長(かっちょよく言うとCEOもしくは島耕作と言う)とされる人が会社の代表取締役として仕事をして、その人が株式のほとんど持ってたりする。で、嫁はんが監査役として役職について、息子が平取締役だったりして、親類で全株式を保有したりするケースがかなり多い。
このような会社を俗に「同族会社」といったりする(現にこのような実体に即して法人税法という法律上でも「同族会社」に関する特別の規律がある)。

そして、従来の法律では株式会社とは大企業(トヨタとかソニーみたいなの)を念頭に置いたわけだが、これとは全く異なる性質の同族会社という完全なる個人企業をも制度的に「株式会社」として認めるということにしたのが会社法である。

だから、株式会社もこんな個人企業的な種類のものも含まれて、それはそれでトヨタみたいな会社とは全く異なるわけだから特別な規律が必要になる、ってことで会社法では、大企業の株式会社と個人企業的な株式会社とを区別して規律しているってわけである。

話を戻すと、なぜ「だっつぁんの議決権だけ認めない」ルールが非公開会社では可能かというと、同族会社を念頭に置いた非公開会社では、株主(つまり、嫁や息子)という人間に着目して、株主としての権利を与えたり与えなかったりする要請が強いからというわけ。

身内で経営している個人企業を念頭に考えれば、どのような「株式」を有しているのかということよりも、誰が「株主」として会社の構成員なのかが重要であるということである。
だって、大衆資本を集結する場合には人間は多いが、個人企業の構成員メンバーは数もしれている。しかもそのメンバーの関係も身内といった密接なものだったりする。そのため、株式の譲渡に制限をして、部外者がいきなり
知らない人「今日から俺が株主!よろ!」
なんてことにならないようにしている、というわけですな。これが譲渡制限付株式のみ発行している会社が非公開会社だという意味です。
反対に、公開会社ではどうかというと、まず考えるべきは公開会社だから譲渡制限が付いていないということである。譲渡制限が付いていないということは、譲渡が自由という当たり前のことを帰結する。ゆえに、会社構成員である株主の交替も著しい。特に上場企業の場合、株主の交替は、株式の売買という方法でめまぐるしく変わる。したがって、個人企業ゆえに会社構成員たる株主が緊密な関係にある、という前提が成り立たない。
逆に、株主によって会社構成員の地位が変わるとなると、誰から株式を譲渡してもらうかでその価値が変わってくるということになるが、これでは株式の譲渡は安心して行うことができない。だって、株式だけではなく誰によって保有されているかまで確認しなければ価値が把握できず、迅速な株式の売買はできないからである。
関西電力の株を買ったのに、だっつぁんから買ったせいで株価は0円だよ〜」
なんてことになったら、どんな優良な企業の株でも買うことにためらうこと必至である。


以上から
1 譲渡制限が付いた非公開会社は、その実体は同族会社で身内の自由に経営がやりたい。逆から言えば、株主の交替によって会社的に好ましくない者が介入することを極力避けたいと考えているという性質を有すること
2 逆に、株式譲渡が自由の公開会社では、株主の交替は当然予定されており、自由譲渡性を有する株式で資本集めを円滑に行える性質を有する。ゆえに、株式の移転のみが重要であり、株主という個性には着目しないようにして、合理的な簡易迅速なお金集めが可能
という実体にかんがみて、法の規律の仕方が異なるのである。


法は、こういった現実的な実体に着目して、細かく規律しているってわけである。

ホリエモンをきっかけに買収防衛策なんてのがちまたで騒がれているが、1番の買収防衛策を俺は知っている。もうこのブログを読んだ人ならわかるはず。


非公開会社になること!


これ最大の防御策!!間違いない!!!!