Winny事件 高裁は逆転無罪。だが、著作権侵害が許されたわけではない。の巻

Winny事件で、大阪高裁がなんと逆転無罪を出したらしい。
一審の京都地裁では罰金150万円の有罪判決だった。これが逆転して無罪になったと。


ウィニー」開発者に逆転無罪 大阪高

判決後の会見で無罪と書かれた紙を掲げる金子勇被告=8日午前、大阪市北区、森井英二郎撮影
 インターネットを通じて映像や音楽を交換するソフト「ウィニー」を開発し、著作権法違反幇助(ほうじょ)の罪に問われた元東京大大学院助手、金子勇被告(39)の控訴審で、大阪高裁は8日、罰金150万円とした一審・京都地裁判決(06年12月)を破棄し、逆転無罪判決を言い渡した。

 小倉正三裁判長は「著作権侵害が起こると認識していたことは認められるが、ソフトを提供する際、違法行為を勧めたわけではない」と指摘。技術を提供しただけでは、幇助罪は成立しないと判断した。

 懲役1年を求刑した検察側は「刑が軽すぎる」として、被告・弁護側は無罪を主張してそれぞれ控訴していた。

 金子元助手は02年5月、自ら開発したウィニーをインターネットで公開。03年9月、松山市の無職少年(当時19)ら2人=著作権法違反の罪で有罪確定=がウィニーでゲームソフトや映画をダウンロードし、不特定多数へ送信できるようにした行為を手助けしたとして起訴された。

 高裁判決はまず、ウィニーの技術自体への評価を検討。「様々な用途があり、技術は価値中立的だ」と述べ、検察側の「およそ著作物ファイルの送受信以外の用途はない」との主張を退けた。

 また判決は、金子元助手はウィニー著作権侵害に使われることを容認していたと認定したが、それだけでは著作権法違反の幇助罪は成立せず、「おもに違法行為に使うことをネット上で勧めた場合に成立する」との新たな基準を明示。そのうえで、元助手は違法ファイルを流通させた少年ら2人と面識はなく、違法ファイルのやりとりをしないようネット上で呼びかけていたことを挙げ、刑事責任は問えないと結論づけた。

 さらに判決は、ソフトが存在する限り、それを悪用する者が現れる可能性はあると指摘。悪用されることへの認識の有無だけで開発者を処罰すれば、無限に刑事責任を問われ続けることになるとして、「刑事責任を問うことには慎重でなければならない」と述べた。

 ウィニーで流通する違法ファイルの割合については、調査によって全体の9割から4割まで幅があり、9割前後とする検察側主張を否定した。

 一審判決は、「著作権侵害を認識していた」として罪の成立を認めたうえで、「その状態をことさら生じさせることは企図していない」として罰金刑を選択していた。
http://www.asahi.com/national/update/1008/OSK200910080026.html

そもそも「幇助」って罪で起訴されること自体がレアな上、このようなP2Pソフト開発・公開が著作権侵害の幇助に当たるとして起訴されたのは初めてのケースだった。
ちなみに、「幇助」とは、援助して犯罪の実行を容易にするといった場合で、幇助者は犯罪の実行者(直接の著作権侵害者)なわけではない。
日本では、犯罪実行者である「正犯」を中心に捕まえて有罪に持っていく。確か95%以上が正犯で、犯罪実行者ではない幇助犯は全体の2%くらいだったはず。
そういうこともあって、幇助犯で起訴されるケースは少なく、しかも起訴されるパターンも決まっている(例えば、賭博の見張り、公然わいせつに該当するストリップの照明係とか)。
しかし、Winny著作権侵害のために利用されることが多いことから、検察は、見せしめ的になんとかWinny作った奴を有罪にしたかったんだろう。


そんなこともあって当初から、「きわどい」と考えられていたこの事件。
幇助犯が成立するには、幇助の故意が認められる必要がある。
一審は、被告人である金子氏は、Winnyが「社会においても著作権侵害をしても安全なソフトとして取りざたされ、効率もよく便利な機能が備わっていたこともあって広く利用されていたという現実の利用状況を認識し,新しいビジネスモデルが生まれることも期待して,Winnyが上記のような態様で利用されることを認容」していたことを理由に、幇助の故意を認めた。


高裁も「著作権侵害が起こると認識していたことは認められる」と判断したようだ。が、しかし、それだけでは著作権法違反の幇助罪は成立せず、成立するかどうかは「おもに違法行為に使うことをネット上で勧めた場合」に当たるかどうかという新たな基準を明示したらしい。
結局、「ソフトを提供する際、違法行為を勧めたわけではない」と指摘して無罪となったということだが、判決全文を読んだわけではないので、まだどの要件が欠けるため幇助不成立となったかはっきりしない。


ただ、高裁が、ソフトが存在する限り、それを悪用する者が現れる可能性はあるので、その悪用されることへの認識の有無だけで開発者を処罰すれば、無限に刑事責任を問われ続けることになるとして、「刑事責任を問うことには慎重でなければならない」と述べている点は重要な指摘だ。 技術開発者のことを考えると当然の配慮であるばかりか、それ以上に「罪刑法定主義」という基本原則に従うとこのような判断は当然なのかもしれない。


一方で、このようなP2Pソフトの利用者による著作権侵害行為が問題になっていることも確かではある。ただ、このような利用状況に対処するために、そもそも刑罰をもってするべきかは問題。YouTube等に顕著だが現代社会でただ違反者を制裁すればよいわけではないことは、知財の大家中山大先生や田村先生が既に指摘するところだ。要するに、利用者の自由と権利者の利益保護のバランスを新しい形でモデル化する必要があるってことだ。その意味ではWinny開発者金子氏の言う通りかもしれない。


まぁ、意地になってたぶん検察は上告するだろう。一審と二審で結論が別れるほどきわどい事件。最高裁でどうなるか期待してます?