【中途半端な知識】出題者の意図を見極めるのは難しい。の巻【泥沼にはまる】

今日も事例研究民事法と関連判例をやった。


第2部の問題8の設問2は


「あ、あれか?相対的過失相殺と絶対的過失相殺の?」


とか思い、あれ?ってなって、すげー難しい問題だなと思ってた。
解説を見てみると、なんてことはなくただの過失の評価の問題だったようだ。法律論じゃなくて、あてはめである過失の評価根拠事実とそれに対する評価障害事実の問題ってことみたい。


しかし、その前提として、相対的過失相殺か絶対的過失相殺かで、求償債権の範囲は異なってくるはず!


とか、中途半端なうっすら知識で、判タ1188号84頁以下で確認。

■問題の所在

[ケース1] 交通事故と医療事故が順次競合した場合

 Xは、Yの運転するタクシーと接触して怪我をした(交通事故)ため、病院で、医師Zの診察を受けたが、その際の診察ミスでXは怪我が拡大した(医療事故)。その損害は、1000万円だった。
 過失割合は、交通事故X:Y=3:7、医療事故X:Z=1:9

判例上、ケース1のような交通事故と本件医療事故の場合、加害者であるYとZの関係が共同不法行為に当たるとして民法719条の適用を認める。
加害者は、損害賠償債務を負うことになるが、共同不法行為の場合、自己の行為以外の他人の共同不法行為者による損害賠償義務をも負うことになり、その結果、Xに生じた損害について、加害者であるYとZが全部給付義務を負うことになる(不真正連帯債務)。
しかし、本件のように被害者にも過失がある場合、過失相殺されうる(民法722条2項)。
では、過失相殺の方法としては、各加害者と被害者との関係ごとにそれぞれの間の過失の割合に応じて相対的に過失相殺をするのか(相対的過失相殺)、各共同不法行為者に対し、共通の割合により過失相殺をするのか(絶対的過失相殺)、いずれの方法によるべきかが問題となる。

相対的過失相殺による処理

相対的過失相殺によると、本件の場合、被害者XはYとの関係ではかしつが3割あるので、この分について過失相殺がされる。損害額1000万円のうち3割が過失相殺によって差し引かれて、結果、Yに対して700万円の損害賠償請求が認められる。他方、加害者Zとの関係において被害者Xの過失割合は1割であるから、Zに対しては、損害額1000万円のうち1割が過失相殺によって差し引かれて900万円の損害賠償が認められることになる。
このように、相対的過失相殺では、加害者ごとに過失相殺の判断をすることになる。そして、加害者が重複して負う部分、つまりYの負う700万円とZの負う900万円のうち重なる部分の700万円について不真正連帯債務関係になると一般的には解されている(部分的不真正連帯債務)。

絶対的過失相殺による処理

事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)が認定できる場合、例えば本件において、Xの全損害のうち全員の過失割合が、X:Y:Z=1:2:7だった場合、絶対的過失相殺によると、損害額1000万円のうち被害者であるXの過失割合の1割が過失相殺によって差し引かれて、残額の900万円について、加害者YとZのいずれに対しても請求できることになる。
このように請求額についていずれに対しても一致するので、部分的不真正連帯債務にならない。加害者間の過失割合は求償の問題として処理される。

■最三小判平13.3.13民集55巻2号328頁の判断

最高裁は次のように述べて、本件のように加害者および侵害行為を異にする2つの不法行為が順次競合した類型については、相対的過失相殺の方法によることを示した。

 本件は、本件交通事故と本件医療事故という加害者及び侵害行為を異にする二つの不法行為が順次競合した共同不法行為であり、各不法行為については加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有するものである。
 ところで、過失相殺は不法行為により生じた損害について加害者と被害者との間においてそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、本件のような共同不法行為においても、過失相殺は各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしん酌して過失相殺をすることは許されない。

最高裁は、加害者および侵害行為を異にする2つの不法行為が順次競合した類型については、相対的過失相殺によることを示したといえる。
では、このような類型に属さない場合はどうなるのか。

[ケース2] 複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する1つの交通事故の場合

加害者Yの車と加害者Zの車の交差点における交通事故によって、自転車に乗って交差点を通行していた被害者Xは怪我をした。この際、被害者Xにも過失があり、Xに600万円の損害が生じた。
各加害者と被害者との過失割合については、絶対的過失割合が、Y:Z:X=1:4:1であった。

ケース2で相対的過失相殺の方法によると、Y:Z=1:1であるから、Yとの関係では、全損害額の2分の1が過失相殺され、Xは、Yに対し、300万円を請求することができ、Z:X=4:1であるから、Zとの関係では、全損害額の5分の1が過失相殺され、Xは、乙に対しては、480万円を請求することができることになる。

相対的過失相殺による問題点

被害者Xが加害者Yのみを訴訟の相手方とした場合、あるいは、加害者Zが無資力の場合には、結局、Xは、Yから300万円を回収することができるにすぎず、Zの過失割合に基づく負担部分(400万円)を他方の加害者Yとそれぞれの過失割合(1:1)に従って、200万円ずつ負担しなければならなくなり、被害者が共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとすることによって被害者保護を図ろうとする民法719条の趣旨に反することになる。最二小判平15.7.11民集57巻7号815頁はこのような考えから、相対的過失相殺による処理を否定して、絶対的過失割合を認定することができるときには、絶対的過失相殺の方法によるべきであるとした。
絶対的過失相殺の方法によると、絶対的過失割合がY:Z:X=1:4:1である場合には、各共同不法行為者の過失割合を加算し、Xは、Yに対しても、Zに対しても、Xの過失である6分の1を全損害額から過失相殺した500万円を請求できることになる。

共同不法行為者間の求償関係

この絶対的過失相殺や相対的過失相殺の求償関係について考える前提に、共同不法行為者間の求償関係の可否について確認する。
不真正連帯債務とは、多数の債務者が同一の内容の給付について全部を履行すべき義務を負い、しかも債務者のうちの一人が弁済をすれば全部の債務者が債務を免れるが、民法の連帯債務に包含されない多数当事者の債権関係であると解されている。
民法719条所定の共同不法行為が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する同法437条の規定は適用されないものと解する」としている。
連帯債務とは異なるということなので、「連帯債務だから」との理由からは求償権を認めることができない。そもそも、全部給付義務を債務者全員が負うので、「負担部分に基づく求償」の問題が起こらないとい。
しかし、そうすると、いずれの債務者が支払わされたかという偶然で損失負担が決まってしまい公平ではない。そのため、現在の判例・通説においては、公平の観点からの求償が認められるべきであるとされるに至っている(判例・通説も現在では求償を認める)。その法的根拠としては、不当利得(民法703条)が援用されている(内田Ⅱ511頁)。
以上から、現在では、共同不法行為者が他の共同不法行為者と自己との過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他の共同不法行為者に対し、当該共同不法行為者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求償することができるというのが判例である。
したがって、「自己の負担部分」は加害行為者間の過失割合によって決定され、

  • 賠償額−自己の負担部分=求償可能な部分

ということになる。

求償関係の問題

以上を前提に、被害者との過失相殺を含む具体的な処理がどうなるのかをみる。
ケース2では、絶対的過失相殺によると、損害額が600万円で、絶対的過失割合が、Y:Z:X=1:4:1であったので、加害者の被害者に対する全部給付義務は、600万円×5/6=500万円だった。
加害者であるYとZの過失割合は、1:4である。したがって、Yの負担部分は、500万円のうちの1/5であり100万円ということになる。
その結果、Yが500万円を賠償した場合、Yの負担部分である100万円を超える400万円が「自己の負担部分を超える部分」ということになり、Zに対して400万円について求償できることになる。
このように、絶対的過失相殺によれば求償関係で問題となることはない。

では、相対的過失相殺による場合の求償関係はどうなるのか?
ケース1は、「交通事故と医療事故が順次競合した場合で損害は、1000万円。過失割合は、交通事故X:Y=3:7、医療事故X:Z=1:9」というものだった。
では、加害者間の過失割合が、Y:Z=5:5で遭った場合、求償関係は具体的にどうなるのか?
相対的に過失相殺して賠償額が算定されるので、Yの賠償額は700万円、Zの賠償額は900万円となるのは上述の通り。
では、このように賠償すべき額が異なる場合において、求償が可能な部分である、加害者YZの「自己の負担部分を超える部分」とはいかなる部分なのか?
賠償額算定の基礎を、①Xの損害額全額である1000万円で算定するのか、②Zの賠償額900万円で算定するのか、③Yの賠償額700万円で算定するのかで、結論が変わってくる。
加害者間の過失割合は5:5であるから、この算定の基礎の半分を支払えば、それを超える部分が「自己の負担部分を超える部分」ということになり求償できる部分になる。

①総損害額1000万円を算定の基礎にした場合

この場合、加害者間の過失割合が5:5ということで500万円を超える部分を直ちに「自己の負担部分」とみることはできない。被害者Xに支払うべき額がYとZで異なり、それにもかかわらず負担部分が同じというのでは、公平の観点から認められた求償権の趣旨に反するからである。
そこで、この公平の観点を考慮するため、YZの賠償額における負担割合で案分するという方法が考えられる。
そうすると、

 Y:1000×0.5×0.7=350万円
 Z:1000×0.5×0.9=450万円

ということになるが、これではYとZの最終的な負担額を合計しても800万円にしかならず、XがZから900万円の賠償が受けられるということと矛盾が生じる。
したがって、①によることはできない。

②Zの賠償額900万円を算定の基礎にした場合

この場合、被害者が受けられるべき最大賠償額を基礎としている。そこで、共同不法行為者間の負担額については、共同不法行為者間の負担割合によるとすると

 Y:900×0.5=450万円
 Z:900×0.5=450万円

こうなる。
しかし、結果的には、過失相殺率の大きい(被害者Xとの関係では、過失が小さい)加害者Yと被害者Xとの関係で定めた過失相殺を無視するものとなる。
また、Y:Xの過失相殺が1:9であった場合、Yの最終的な負担額は100万円であるにもかかわらず、YがXに対し負担する債務額(100万円)を負担部分(450万円)が上回るおそれがあり、不都合な点が生じることになる。

③Yの賠償額700万円を算定の基礎にした場合

これは、共同不法行為者間の不真正連帯債務として賠償を負う額を基準とすることになる。
そこで、加害行為者間の過失割合を計算すると、350万円を超える部分が「自己の負担部分を超える部分」となりそうである。
しかし、本来Zは、700万円を超える部分、すなわちYZで負担すべき賠償額の重複する限度(700万円)を超える部分については単独で賠償すべき義務がある。この点を考慮すると、

 Y:700×0.5=350万円
 Z:700×0.5+200=550万円

となる。
つまり、共同不法行為者間において重複する限度(700万円)で一部不真正連帯債務になり、これを負担割合で案分し、重複する限度を超える部分(900万円−700万円=200万円)については、加害者Zが単独で負担する方法である。
この場合、本来Zは、総損害額1000万円の45%(0.5×0.9)を負担するにすぎないとすれば、100万円の負担増となり、不合理でとも思えるが、しかしながら、共同不法行為者間の負担割合を含めて、総損害額から最終的な負担額を算定することは、各加害者と被害者との関係を絶対的過失割合に基づき認定することと同じであり、平成13年判決の事案のように、絶対的過失割合を認定することが適切でない場合に、相対的過失相殺の方法を採用する意義があるとすれば、絶対的過失割合を前提とする批判は当たらない。
ということで、この方法が、相対的過失相殺による場合の共同不法行為者間の求償方法として適切ということになる。
が、判例が確立しているわけではないので未解決な問題である。




と、長々やってまいりましたが、これが事例研究の問題意識なのかと思って、全然わからなかったという話。
いや〜、まいったまいった。