【2010】刑訴論文の検討【1位の答案】

最近、次回のスタ論に向けて刑訴の勉強しております。


刑訴が苦手なあたくし。
そういうことで、まず、今年の刑訴の論文を検討することに。


ありがたいことに、今年の刑事系論文1位と15位の超上位答案をゲットすることに成功したため、これと出題趣旨を比較・検討することに。

第1問は、出題趣旨によると、

 刑事訴訟法第221条は,被疑者その他の者が遺留した物を令状なく領置することを認めているが,設問1の捜査①及び②では,本問のごみが遺留物といえるか,いえるとして捜査機関は何らの制限なくこれを領置することができるか問題となり,捜査③では,消去されたデータの復元・分析が捜索差押許可状の効力として許されるか,それとも新たな権利侵害に該当し別個の令状を必要とするか問題となるため,この問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論ずる必要がある。

ということなので、

  1. 「遺留物」該当性
  2. 「領置」の可否
  3. データの復元・分析が捜索差押許可状の効力として許されるか

について、論じなければならない。


このうち、前2者の論点については

 法の文言解釈と事例への適用においては,同条における遺留物がなぜ令状なくして取得可能なのかという制度の趣旨に立ち返り,占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令状を要しないとされている遺留物とは,遺失物より広い概念であり,自己の意思によらず占有を喪失した場合に限られず,自己の意思によって占有を放棄し,離脱させた物も含むなどと定義した上で,具体的事例の捜査①及び②のいずれについても,投棄されたごみが遺留物に該当するか否かをまず検討し,その上で,当該ごみが遺留物に該当するとしても,排出者がごみを排出する場合における「通常,そのまま収集されて他人にその内容を見られることはないという期待」がプライバシー権として権利性を有するか否かを検討し,さらに,同権利性が認められるとしても,本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論ずるべきである。こうした法解釈の枠組みの中で,本件事例の具体的状況下におけるごみの領置の必要性及び相当性を検討してその適法性を論ずることになろう。

ということなので、221条の「遺留物」の意義について、制度趣旨から規範を定立することは必須のようだ。
ここでは、
①遺留物該当性
  ↓該当する
②領置の必要性・相当性の有無
という二段階の検討を想定しているみたい。


①については、さすが上位答案。いずれも、規範はことなるものの制度趣旨に遡った規範定立をしている。
もっとも、②については、必ずしも「必要性・相当性」の基準によっているわけではない。かならずしも二段階構成によらなければいけないということではないようだ。


出題趣旨では、捜査①のあてはめについて、

 けん銃密売事件という重大犯罪でありながら組織的に,かつ,巧妙な手段により行われていたため通常の捜査方法では摘発が困難であったという捜査の必要性に加えて,ごみ袋が投棄されたのがだれもが通行する場所であったという具体的状況や,他者が拾うことも予想される公道上のごみ集積所から,甲がごみ袋を置いたのを現認した上で,同ごみ袋を持ち帰ったという手段の相当性を検討するべきである。

としている。

捜査②のあてはめについては、

 ごみ集積所がマンション敷地内にあるが,管理者の同意なしに敷地内に立ち入る行為の法的意味をどのように評価すべきか,その際,そこは居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,だれでも出入りすることが可能であったという事実をどのように評価するか,その場所に投棄されたごみの遺留物性及びプライバシー権の要保護性の有無を,捜査①との違いを意識しながら検討して論じる必要があろう。

としている。
1位の答案のコメントからは、捜査①が公道で、捜査②は私有地内にあるゴミ集積所であることとの対比から結論を出しているものと推測される。これは出題趣旨に合致するが、これは多くの人が気づいていたんだろうと思う。


で、捜査③が携帯電話のデータを復元・分析している点は、

 消去されたデータの復元とは,消去によって可視性がなくなったデータを可視性がある状態にするものであり,元々のデータを破壊,改変等するものではないといった具体的事実の分析をし,その上で,令状裁判官の審査を経た当初の携帯電話に対する捜索差押許可状がどこまでの効力を持つものかという観点から論ずるべきである。

としている。


上位者答案は「必要な処分」(111条2項)で書いている。これも一般的かなと思う。
ただ、1位答案はかなりあっさりで、コメントで指摘されている通り十分な検討はされていないままだった。その分、設問2に力を入れたという感じ。


それにしても、1位の答案では、設問2で書くことが多いからか、設問1はかなりあっさりだ(設問1が48行であるのに対して、設問2は133行使って書かれている)。刑法が過失と不作為犯の問題ということで、多くが最後まで十分に書けなかったと思われ、このような判断はかなり成功したんじゃないかなと思う。
ただ、メモ片の復元行為については一切触れていないのはマズいんじゃないかと思った。が、相対評価の試験ということからすると、この程度で致命傷は負わないみたいだ。


最近よく指摘されてるけれど、出題趣旨にすべて応えることは事実上不可能であることが1位の答案を読むとよくわかる。
要は、配点の多いところは厚く、少ないところはあっさりと必要十分なことだけ書くことが必要ということなんだろう。
まぁ、そういうことがわかっても、「もしかするとここも問題になるから書かないとダメか?」みたいに思って、必要以上に書くと、その結果書くべきところを十分に書けず失敗したり、逆に、「ここではこれも問題になるけど、あっさりでいっか」とか思うと、実はそこがメイン論点だったりとかして、結局、配点が少なくなってしまうということがよくある(特に憲法)。何回やっても。ダメだ、自分の無能さに泣きそうになってくる。


論文って難しいと言われる本当の理由が、三十路を過ぎた最近になって気づいたような気がする。あ、また違う理由で泣きそう。ニート的な意味で。



設問2では、おとり捜査の適法性が問題になる。
この点について、出題趣旨では

おとり捜査の意義を定義し,おとり捜査一般の問題の所在や適法性の判断基準を示した上で,いわゆる機会提供型か犯意誘発型かというだけではなく,本件で当該捜査手法をとるべき必要性・補充性や働きかけ行為の相当性を考慮し,設問で与えられた具体的事実を踏まえて,本件における乙を通じての被疑者甲へのけん銃譲渡の働きかけが適法であるか否か詳細に検討する必要がある。

と指摘している。


この部分はたいていできてそう。


秘密録音について、出題趣旨では、

 会話の一方当事者の同意がある場合における通話及び会話の秘密録音については,例えば,会話当事者の一方が録音に同意している場合には,その会話内容は相手方の支配下に置かれたものであり,会話の秘密性は放棄したものと評価され,要保護性は,通信傍受のような会話当事者のいずれの同意もない場合に比べて低下しており,任意捜査としてその適法性を判断するなどと,この問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じた上で,録音①,②及び③のそれぞれの状況における具体的事実を踏まえて適法性を論ずるべきである。

と指摘している。
ということで、任意捜査を前提にあてはめをすることが必要。


1位答案はコンパクトにまとめているが、15位答案と異なり、録音①〜③について基準にあてはめて検討できている。


通説・判例に従えば、普通、これらの捜査は適法になる。
そこで、捜査報告書の証拠能力の有無は違法収集排除法則ではなく、伝聞証拠の問題で処理することになる。
1位答案は問題文に素直に、①捜査の適法性→②捜査報告書の証拠能力、という順序で検討している。
これに対して、法セミ・辰已と同様に15位答案は、①捜査報告書の証拠能力→②捜査の適法性、という順序。


伝聞証拠について、出題趣旨では、

 本件捜査報告書には,甲乙間及び甲丙女間の会話部分並びに乙によるその会話内容の説明部分が含まれていることから,これらの部分の証拠能力について,更に伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で検討する必要がある。
 要証事実を的確にとらえれば,甲乙間及び甲丙女間の会話部分については,会話内容が真実かどうかを立証するものではなく,甲乙間及び甲丙女間でそのような内容の会話がなされたこと自体を証明することに意味があり,会話の存在を立証するものであるから,この会話部分は伝聞証拠には該当しないとの理解が可能であろう。
 これに対して,乙による説明部分については,正に乙が知覚・記憶し,説明した会話の内容たる事実が要証事実となり,その真実性を証明しようとするものであるから,伝聞証拠に該当すると解した上で,伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によりその証拠能力の有無を検討することになる。
 同号の各要件については,乙の死亡や会話部分にはけん銃という言葉など聞き取れない部分があること,乙による説明は会話に引き続きなされており,その内容は直前の会話内容と整合するとともに,乙方でりんごの箱とともに発見されたけん銃2丁などの客観的状況とも整合するといった具体的事実を的確に当てはめ,その証拠能力を検討しなければならない。

と指摘している。


まず、非伝聞かどうかの認定。これめっさむずい。
が、とりあえずやらないとダメなことは、①要証事実の認定、②①で認定した要証事実を立証するのに本件捜査報告書の内容の真実性が問題となるかどうか、という2つの検討。


検察官が,「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容」という立証趣旨を設定している。会話の存在自体を立証する場合、内容の真実性は問題とならない。この場合、その存在自体から何を立証して、そこから認定される事実によって犯罪事実の証明に資するなら、このような立証趣旨は成り立つ。したがって、この場合、非伝聞ということになる。
甲乙間の会話や甲丙女間の会話が、その存在自体から拳銃譲渡の公訴事実の存在を推認させる情況証拠になる(すなわち会話の存在自体が犯罪事実の立証に役立つ)とすると、非伝聞だ。


が、裁判所は立証趣旨に拘束されないから、真の立証趣旨を把握して、実はその内容の真実性を立証するところに意味があるとなると、伝聞ということで、さらに伝聞例外の検討ということになる。


会話の内容が立証趣旨とされているが、この場合も同様に要証事実との関係から伝聞・非伝聞を決する。
セミ解説によると、録音①と②の甲乙間の会話は、拳銃譲渡の謀議行為をなす会話であるから、この謀議を内容とする会話の存在は甲による拳銃譲渡の公訴事実を推認させる間接事実(情況証拠)になる。しかし、甲乙聞の会話から推認される甲の拳銃取引の計画や意図を考慮しなければ各会話と公訴事実との関連性は明らかとはならないのだから、その意味で甲や乙の会話内容(供述内容) の真実性はやはり問題となる。
この解説によると、真の立証趣旨は会話内容の真実性ということになる。ただ、そこでの会話は、別に知覚して、記憶されたものではなく、その当時における精神状態の供述と考えられるので、結局、通説・判例によると非伝聞ということになる。


これに対して、録音①と②に収録された乙の説明部分は、甲との聞で拳銃譲渡に関する相談をしたという乙の体験供述であり、これを甲のけん銃譲渡の公訴事実の立証に用いる場合には、明らかに乙の供述内容の真実性が問題となる。したがって、乙の説明部分(供述) については伝聞証拠性が認められる。


録音③の甲丙女間の会話は、伝聞・非伝聞のいずれの見解もあるようだけれど、1位答案では、伝聞としている。いずれにしても、伝聞・非伝聞の区別について録音①〜③について、別々に検討している。
15位答案は甲乙丙の供述部分を一緒くたにして非伝聞としているが、1位との差はこの部分にあるのかもしれない。


録音③では

甲「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」

という電話のやりとりがある。
乙方マンションでは、けん銃2丁が落ちており、その近くには開封された宅配便の箱があり、その中を確認するとりんごが数個入っていたという。
そうすると、この事実から、甲がりんごと一緒に拳銃を届けたことを録音③の甲の会話から推認することができる。この場合、りんごと一緒に拳銃を届けたことが真実であることを録音③から推認するわけではなく、甲の会話の内容から、押収された拳銃とその押収された状況(拳銃と同じ場所にりんごの箱があること)と甲の会話内容が一致するという事実から、甲によって拳銃がりんごの箱をもって届けられたという拳銃譲渡の公訴事実を推認することができる。このような推認は、犯人以外知り得ない内容が話されているということから、経験則上、犯人性を推認できるのであって、甲が話した内容が真実であることは前提とされていない。
このような考えからすると、やっぱり非伝聞が正しいと思う。亀井源太郎教授も非伝聞と解するらしいけど、まだ解説はみてないのでどういう論理で非伝聞にするのかはわからん。


明日、図書館で調べてみるか。
とりあえず、印象としては、1位答案はすべてにおいてコンパクトにまとめられており、かつ、多くの論点を網羅しているということ。
そりゃ点数も高いなということやね。


次のスタ論は、これをいつも以上に意識しよう。いつも時間足りない感じだし。