カンニング予備校生に成立する偽計業務妨害罪の法的論点のまとめ

カンニング予備校生、股間で左手入力だった…入試投稿問題

 関連記事を検索してみますか?カンニング Yahoo!  京都大学の入試問題が、試験時間中にインターネットの質問サイト「ヤフー知恵袋」に投稿された事件で、京都府警が偽計業務妨害で逮捕した仙台市の男子予備校生(19)が、「携帯電話を股に挟み、左手で文字を打った」と供述したことが4日、捜査関係者の話で分かった。携帯電話に文書の自動テキスト化機能はなく、「すべて手打ちだった」とも供述。実際に、こうした器用な手口が可能かどうか、府警は近く「再現実験」をするという。


 逮捕された予備校生は、京都府警の調べに、「自分の席で、携帯電話を股に挟み、左手で文字を打った」と供述。さらに「すべて携帯で手打ちした」とも供述している。


 供述通りなら、机の下で“股間”の携帯を左手で操作し、質問サイトに何度も投稿。さらに第三者からサイトに寄せられた回答を携帯で閲覧しつつ、利き腕の右手で答案に書き込んだ疑いがある。試験官が近くを通る時は、「脚を閉じて(携帯を)隠した」という。

 府警によると、予備校生の母親名義のドコモの携帯は、いわゆるスマートフォンのようなタッチパネル式でなく一般的な機種。投稿間隔が5〜11分の短い間隔で繰り返されたことから、撮影した文書を自動的にテキスト化する機能を使った可能性も指摘されていた。だが、押収された携帯には、その機能はなかった。


 長文や数学の特殊記号などを短時間で打ち込むには、熟練が必要とみられる。予備校生は、入試投稿に使ったハンドルネーム「aicezuki」とは別名義で、昨年6月から約半年間に約200件も、模試などの問題投稿をした可能性も出ている。こうした“予行演習”で、操作スキルや、携帯の辞書などを鍛えたことも考えられる。「aicezuki」については「何となくつけた。特に意味はない」と話したという。


 捜査幹部も「器用な手口」と驚く方法が、実際に可能か確かめるため、府警は「再現実験」を実施予定で、大学側に席次や試験官配置の資料提供を求める。結果次第では、試験官の監督態勢など、大学側も反省を迫られることになりそうだ。


 また予備校生は、京大のほか、同志社、立教、早稲田の3大学でも、同様投稿したことを認めた。警視庁は4日、早大、立教大の被害届を受理しており、予備校生の関与の裏付け捜査を進める。
http://hochi.yomiuri.co.jp/osaka/gossip/topics/news/20110305-OHO1T00130.htm

予想通り、すぐ逮捕された。
ただ、二十歳に達していないので少年法で保護されるため、実名は報道されていない。


逮捕の被疑事実は偽計業務妨害
というわけで、法的論点を以下でまとめる。

■ 偽計業務妨害罪とはどんな罪?

偽計業務妨害罪を定める刑法233条によると

 ……偽計を用いて、人の……業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

と規定している。
したがって、偽計業務妨害罪が成立するには、

  1. 偽計を用いて
  2. 人の業務を
  3. 妨害した

といえることが必要になる(構成要件該当行為)。

■ 「偽計」とは何か?

偽計の意義については学説上、争いがあるが、判例上、偽計に当たる行為をかなり広範囲に認めており、積極的に人を騙したり勧誘したりすることの他、人の錯誤または不知を利用する場合や、不当に相手を困惑させる手段も含むと解されている。要するに、威力以外の不正な手段を用いることが広く「偽計」ということになる(刑法が欺罔と区別して「偽計」という文言を用いた趣旨からこのように解するものとして条解刑法652頁)。
例えば、3か月足らずの間に約970回にわたり昼夜の別なく無言電話をかけて中華そば店の営業を妨害したとして、偽計業務妨害罪の成立が認められている*1。この裁判例は、「偽計」の意義について

欺罔行為により相手方を錯誤におちいらせる場合に限定されるものではなく、相手方の錯誤あるいは不知の状態を利用し、または社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させるような手段術策を用いる場合を含む

と判示している。

今回の事件だと、大学の試験結果における入学合否判定という業務をカンニングという偽計を用いて妨害したということになるんだろう(ただ、何が「業務」に含まれるか、「妨害した」といえるかという点については学説上争いがある)。
ちなみに、今回のカンニング行為が携帯でヤフー知恵袋を使ったものだったということで、テレビで色々話題にされている。けれども、それ自体カンニング行為の手段に過ぎないと考えれば、犯罪の成否とはあまり関係ないといえる(以下、補足参照)。

■補足

入試ネット投稿、早大・立大も警視庁に被害届

入試問題がインターネットの掲示板に投稿された事件で、早稲田大(東京都)と立教大(同)は4日、警視庁に被害届を提出し、受理された。警視庁は京都府警と共同捜査本部を設置し、連携をとりながら偽計業務妨害の疑いで捜査を進めている。

 被害届は、立教大は池袋署、早稲田大は戸塚署に出された。立教大は2月11日の文学部の英語の試験で2回、早稲田大では同月12日の文化構想学部の英語の試験で1回、投稿があった。京都大(京都市)の問題投稿で京都府警に逮捕された男子予備校生(19)は、立教、早稲田両大と同志社大(同)の問題の投稿も認めているという。

 京大以外の3大学は不正が発覚した時点で合格発表を終えており、試験2日目に発覚した京大とは事情が異なる。ただ、警視庁捜査1課は、不正をした受験生を割り出すため答案を照合する作業に人員を割かせるなど、投稿が大学の通常の業務に影響を与えた疑いがあるとみて捜査。今後、答案などの提供を求めることを検討している。
http://www.asahi.com/edu/news/TKY201103040429.html

この記事によると、「不正をした受験生を割り出すため答案を照合する作業に人員を割かせるなど、投稿が大学の通常の業務に影響を与えた」ということを偽計業務妨害の被疑事実としているようだ。
このように考えると、今回の事件はただのカンニング行為一般の話ではなく、ヤフー知恵袋に問題を掲載し、もって不正をした受験生の答案を作出して、これを正規の答案と混同せしめたことが問題とされている。そうすると、実行行為がただのカンニング行為じゃない、より法益侵害性の大きい行為といえそうだ。
確かに、今回のカンニング行為の手法を考えると、このように理解する方が事件の問題点が鮮明になるように思える。
もちろん、後述の通り、実際に「不正をした受験生を割り出すため答案を照合する作業に人員を割かせるなど」の事実がなくとも、危険犯と理解されている業務妨害罪においては犯罪が成立しうる。したがって、今回のヤフー知恵袋への問題投稿行為自体をもって、その時点で当該問題に対する答案の中に不正な答案が入り込んだおそれが明らかになることから(試験時間中になされた投稿であるから)、これで十分に「偽計」を用いて業務を妨害したといえる。


蛇足だが、携帯を手打ちしていた行為に気づかなかった今回の試験官はかなりしょぼい監督しかしていなかったんだと思わざるを得ない。自分も実際に大学院にいた頃、大学の学部試験監督をしたことがあったけれど、壇上から試験を受けているところを見れば、不審なことをしていたら意外に目立つもので(本人はバレないと思っている)、実際に1人(女子)発見して事務室に連れて行ったこともある。
しかも、今回手打ちだったということで、しかも同じ問題について数回ヤフー知恵袋に投稿しているところを見ると、かなり時間をかけて携帯をいじっていたんだろうと思われる。にもかかわらず、これに気づかない試験監督はちょっとザルすぎると思う。人数が少なかったのか、そもそも監督が不十分だったのかわからないけれど。


どっちにしても、このカンニングはほとんどが失敗に終わったんじゃないかなと思うけどなぁ。時間切れで。いくら熟練のカンニングスキルがあったとしても、それで100点すべてがもらえるものでもなく、仮に成功したとしても2問程度が限度だろうし、5〜15点がいいところだと思う(効率が良ければ30点くらい行くか?)。しかも、ヤフー知恵袋の答えが正解とも限らないというリスクもあるわけで、これはかなりの博打だ(人生的な意味でも)。問題数にもよるだろうけどな。少なくとも司法試験では絶対不可能だな。択一は1問2分で解かないとダメだし、論文も第三者が答案構成なりを作って、メール送信して、みたいなことする時間なんて絶対ないだろうし。あ、そもそも問題を送信するのもかなり大変そうやな。
毎年数人がカンニングが発見されてるらしいけど、そういう奴って司法試験に限っていえば、カンニングしても絶対合格点までいかないような気がする。時間的制約から。

■ 「人の業務」とは何か?


 「業務」とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務または事業をいう。ただ、一回的な行為についても業務に当たる場合がある。また、営利を目的とするものでなくても「業務」に当たる。
今回の事件における偽計で妨害する業務が何か?って話だけれども、毎年行なわれる大学試験の合否判定の事務がこれに当たる、だからカンニングによる妨害があった!ってことになると思われる。
 ちなみに、業務の主体である「人」とは、自然人であると法人であるとを問わないと解されており(判例・通説)、今回の事件も大学という法人の業務が問題とされている。

■ 京都大学の場合、「業務」じゃなくて「公務」ではないのか?

 京都大学は国立大学であるため、公務執行妨害罪との関係が問題となり得る(独立行政法人化された後も、刑法の適用において国立大学の職員は「みなし公務員」とされている〔国立大学法人法第19条〕。)。
 判例上、公務のうち、強制力を行使する権力的公務は、業務妨害罪の業務に当たらず、公務執行妨害罪の公務として、同条による保護を受け、前記公務以外の強制力を行使しない権力的公務及び非権力的公務は、業務妨害罪の業務に当たるとともに、公務執行妨害罪の公務にも当たり、両罪による保護を受けると解されている。
例えば、警察官のパトロール中に警官に対して威力を用いて、その職務を妨害するようなことをしても、警察官は強制力を行使して妨害行為を排除することが可能であるため威力業務妨害罪は成立せず(つまり業務妨害罪によって警察の職務は保護されない)、公務妨害罪のみ成立し得るということになる。
つまり、自力執行力を有する公務に関しては公務執行妨害罪でのみ刑法上保護され、それ以外の非権力的な公務については、公務執行妨害罪だけでなく業務妨害罪でも保護されるものと解されている。
 したがって、京都大学の業務が「公務」に当たるとしても、業務妨害罪が成立し得る。
 もっとも、公務に当たるとしても、今回のカンニング行為は公務執行妨害罪の実行行為である「暴行又は脅迫」に当たらないため、結局、公務執行妨害罪は成立しない。

■ カンニング行為がバレたのに「妨害した」といえるのか?

 業務妨害罪において、業務を「妨害した」とは、判例上、

現に業務妨害の結果の発生を必要とせず、業務を妨害するに足る行為あるをもって足る

と解されている*2
このように、条文上では「妨害した」という文言であるにもかかわらず、実際に妨害されたことまでは必要ない、というのが判例の立場と一般的に理解されている。つまり、業務妨害罪の既遂成立としては、妨害の結果を発生させるおそれのある行為があれば足りる(抽象的危険犯)という意味である*3
このような理解を前提にする限り、カンニング行為は適正な合否判断を誤らせるおそれのある不正な行為であるから、「業務を妨害するに足る行為」といえ、業務を「妨害した」に当たることになる。
したがって、判例・実務に立つ限り、今回のカンニング事件の犯人には業務妨害罪が成立する。
ただ、裁判例コンメンタール刑法111頁以下には、こう書かれてある。

替え玉受験やカンニングのように、業務を行う者の判断を誤らせ、業務内容を実質的に不適切なものにした場合、あるいは単に個別的な業務における判断の誤りを生ぜしめたにすぎない場合は除外されるという説があり、実務もそのように運用されているものと思われる。

しかし、今回の事件が逆送により刑事手続が開始されて有罪が確定することになれば、この理解は誤りだということになる。
これまでも替え玉受験者が大学入学選抜試験の答案を作成・提出した事案では実際に有印私文書偽造・同行使罪の成立が認められており*4、可罰的な行為と理解されているというのが裁判実務の感覚だったと思われる。もちろん、私文書偽造の罪と業務妨害罪は異なるが、決して業務妨害罪が成立しないから私文書偽造の罪で起訴したわけでなく、むしろ私文書偽造の罪の方が罪が重いので(私文書偽造罪は3月以上5年以下の懲役であるのに対して、業務妨害罪は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、いずれも成立する場合でも私文書偽造の罪で起訴したのだとみるのが自然だろう。
そうすると、今回、本人が答案を作成しており文書偽造の罪は成立しえないので、業務妨害罪で処罰を求めるのは、これまで私文書偽造罪で潜在的に成立していた業務妨害罪がここで顕在化したのだと理解した方がこれまでの裁判例とも整合的だろう。



ちなみに、一般人の中には「かわいそう」とか言う人もいるかもしれないけれど、今回のような大学受験のカンニング行為は犯罪行為(偽計業務妨害罪)であるということを看過しているのかもしれない。

■ 茂木健一郎氏がカンニング事件で「クズ新聞、クズ大学」と批判している件

 京都大の入試問題を試験時間中にインターネットの掲示板「ヤフー知恵袋」に投稿したとして仙台市の男子予備校生(19)が3日、偽計業務妨害容疑で逮捕された。この件で、脳科学者の茂木健一郎氏(48)が同日、自身のTwitterとブログで、京都大学や日本のメディアの対応を批判している。


 茂木氏のカンニング事件に対するつぶやきは、男子予備校生の逮捕前から始まっていたが、3日の午前には「拝啓京都大学の自由な学風にはいつも尊敬の念を抱いてきました。今回の受験生に対する貴学の対応は、その伝統を踏みにじるものと考えます。特定できた段階で、警察への被害届けをただちに取り下げるべきであると考えます。これからも自由な学風を保ってくださいますよう。脳科学者 茂木健一郎」と発言。


 夕方以降、「逮捕だとさ。ナチス。世界の笑い者」「クズ新聞、クズテレビ、クズ大学、これで満足したか?」「オレはさ、日本の新聞、テレビには、ほとほとあきれているが、それでもつき合いつづける。なぜか。現場の『人』が好きだからだ。つながりたいからだ。しかし、組織としては、終わっているね」と徐々にヒートアップ。


 その後、「クズ朝日新聞が、逮捕されたとオレの携帯にニュース速報を送った。ジャーナリストは、日本にいないね。アタマの中に、本当に誰かいるのか? お前らが、日本を沈ませている。オレは、本当に日本のことを愛して行動する」「クズ朝日、オレのツイートを読め」「京都大学、お前は死んだ! お前は、もはや、世界的水準の、academic insutitutionではない!」と、その怒りは頂点に達した。


 インターネット上では、茂木さんの一連のつぶやきに対して「若い子の出来心での失敗をこんなにバカみたいに騒ぎ立てることないよね」「カンニングは駄目だけど、今回のメディア報道はやり過ぎ」といった声が上がっていた。


 また、茂木氏は4日午前に自身のブログを更新。冒頭で「今回の京都大学をはじめとする入試における『カンニング事件』は、いろいろな意味で心が痛む。」と述べ、前日のTwitterとは異なり、冷静にコメントしている。


 「京都大学が被害届けを出し、『偽計業務妨害罪』でカンニングをした学生が逮捕されるに至ったことに、強い違和感を覚えるものである」として、その違和感の理由について語っている。


 「第一は『大学の自治』『学問の自由』」「今回の事件において、京都大学の関係者が『被害届け』を出してしまったことは、『大学の自治』の点から疑問である。日本の大学が、大きく変質してしまったことを感じる」「第二に、教育者の立場からの配慮に欠けているという点である」と指摘。


 また「京都大学にあこがれ、志願をしてきた学生が、心の弱さから「カンニング」をしてしまった。その時に大学側がとるべき対応は、入試で不合格にすると同時に、前途ある若者が未来に向き合えるような配慮をすることではないか。『偽計業務妨害罪』という罪名の下に、『警察に突き出す』ことが、大学人のやるべきことだとは私は思わない。」と述べている。


 最後に「今回のカンニング事件を通して、日本の大学入試のあり方、そこで問われている学力の質、さらには事件を一斉に報道したメディアの体質などについても様々な問題が提起されていると考える」と結んでいる。(編集担当:李信恵・山口幸治)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110304-00000018-scn-ent

茂木先生のことは嫌いではないけれど、小生から言わせると
カンニング少年がかわいそうとか言って少年を守ろうとする奴こそクズ」
ということになります。
別に新聞や大学を擁護する気はないけれども、今回の行為がどういうものかってことをちゃんと認識・理解できれば、「かわいそう」なんて言葉で済まされるような行為ではないことは明らかになると思われます。


第1に、上述の通り、このカンニング行為は犯罪行為だということ。自分本位に暴行の罪を犯した者よりも、重い罪をしているってこと(暴行罪は2年以下の懲役であるのに対して、業務妨害罪は3年以下の懲役である)。かわいそうなら罪を犯してもいいのか?って反論に「かわいそうだから罪を犯してもいい」と言う人はいないだろう。
第2に、この少年が本当にかわいそうといえるのか?ってこと。合格したいと思って頑張って勉強をしている人がいる一方、この少年のようにカンニングスキルをみがくことに頑張っている者が本当にかわいそうといえるのか?この少年がカンニングによって合格したことで、本当に勉強を頑張って合格すべきだった人間が不合格になることがあっても、かわいそうで済まされるのか?本当にかわいそうな人間は本当に勉強を頑張っている人間じゃないのか?
第3に、今回の行為が与えた社会的影響だ。四六時中ニュースで報道するのもどうかと思うけれど、社会に与えた影響は大きいことは確かだ(ちなみにこういう要素も起訴判断の要素になるし、量刑の判断にもされる)。ヤフー知恵袋を使ったところが犯人発覚に繋がったわけだけれど、これがヤフー知恵袋じゃなかったらどうなっていたか?
例えば、金を使って現役東大生の家庭教師を10人ほど自宅に待機させて、メールを自宅パソコンに送信してこの家庭教師に問題を解かした場合、全くバレないまま、かつ、高得点を取ることがほぼ確実になる。
そして、こんなことはこれまで可能性としては想定できたわけで、ただほとんどの受験生がそんなことしてこなかっただけの話だ(した人間がいないとはいいきれないが)。
しかし、このような行為があったとすれば、それはただのカンニングではなく、かなり悪質なものだといえる。
今回のようにヤフー知恵袋を使って、他人の力を利用する点で、完全に他人の力に頼っている。自分で用意したカンニングペーパーなんてものじゃない。問題を渡して他人が正解を答える。受験者の学力を測る試験において受験者以外の者が答えるってこと。
これは2つの意味で試験制度の根底を覆す行為だ。
1つめは、合否判定の基礎を害する行為だということ。当然、合否判定は、受験者が同じ問題、同じ時間、その他同じ条件で試験に回答させたものを差別化(優劣をつける)することで成り立つ。そのうち今回のようなカンニングがあると、同じ条件どころか受験者の学力自体を測ることができなくなる。仮に、このような行為が蔓延するとなると、試験制度自体成り立たない。そして、今回発覚したことは、ヤフー知恵袋じゃなかったら判明しなかったという点で、密行性が高いカンニング行為としてはとても巧妙なものだったということだ。ゆえに、動機がどうであれ客観的には極めて悪質なものだということだ。
2つめは、他の受験生に対する関係で、とんでもないことを知らしめたことだ。すなわち、「うまくやればカンニングも可能だから!」ってことを教えてしまったということだ。上述の通り、たまたまヤフー知恵袋において問題が発覚したから事件が判明しただけで(試験監督上では発覚していない)、これがヤフー知恵袋じゃなかったら、カンニングが成功していた可能性が極めて高い。となると、今後より精巧なカンニング行為をしようとする者も出てくる可能性は小さくない。テレビ見て知ったけど、なんやあの眼鏡型盗撮機は!?完全にわからんやんけ!!(っていうか、テレビはもはやいかに巧妙なカンニング手法があるかを教えます。みたいなことになっとるやんけ!)
まじめに勉強している人間が馬鹿を見る。たぶんそんなことにしてはいけないという思いが(試験監督時に発見できなかった恥ずかしさとともに)あって、大学は偽計業務妨害罪で被害届をだしたんだろう。だとすれば、それは正しかったと思うし、むしろ「被害届」じゃなく「告訴」でも良かったと思うくらいだ。
これに対して、茂木先生は大学が警察に突き出すなんて大学としてすべきではないと語っている。大学は警察権力と対立してきたなんてことをいう人もいた。
こういうことを言う人はきっと全共闘時代の大学を想定しているんじゃないかと思わざるを得ない。しかし、大学が警察に屈するとかそういう問題ではない。「被害届」という形式にこだわっているのかも知れないが、むしろ積極的にこのような犯罪行為を行なう人間は処罰されるべきという意味で捉えるべきだ。そして、それは学問とは関係ない。大学内という部分社会を超えた問題であり、一般市民法秩序の問題だろ。
だから、ここで大学の自治や、学問の自由を引き合いに出すのは筋違いだ。もちろん、その後の警察権力との関係を危惧する気持ちもわからないでもないが、「それとこれとは別」ということを理解して、大学の自治の問題と峻別しなければ、「大学=無法地帯」を看過しろという事態を招来しかねない。茂木先生の言っていることはこの点を見過ごしている。
というか、逆にこんな悪質なカンニング行為の真の被害者は他の受験者なわけで、この者たちの学問の自由を奪う行為ということを看過しているんじゃないか?
このカンニング少年の学問の自由を主張するならそれなりの責任を果たさなければならない。そもそもこの少年に至っては学問の自由を放棄してカンニングしているわけで、こんな人間に学問の自由を主張する権利を認めていいのか?本当に大学に入って勉強をしたい奴が、勉強するための手段であるはずの大学入試でカンニングするなんて、これほど矛盾したものはないだろ。
まぁ脳科学者だから、「公共の福祉」って言葉知らないんだろうな。学問の自由って憲法上の権利なんだー!ってことしか頭にないんだろう。こういう間違った知識を出されるとうんざりするわ。しかも、警察とか別にここでは関係ねーし。やりたいように学問の自由を大学は実践できるし。


それから、「まだ19歳なのに…」みたいなことを言う人もいる。どんだけ甘やかす気やねん我がJapan。
こんな風に少年を甘やかせるのは少年法と似ているけれど、そもそも「少年」といっても犯人は19歳なわけで、1年も経たないうちに20歳になるわけ。この数ヶ月の差で少年法でたまたま守られているだけで、この少年は限りなく成人に近い少年で、極めて成人に近い責任が課せられて叱るべきだろというのが率直な感想。
これから送検、家裁に移送、で逆送されることを祈るばかりだ(そうならない可能性が高いけれど)。



あかん。生ぬるいことを、さも正しいかのようにぬかす輩がおったから熱くなってしまった。ほとんど法律とは関係ないけれど、今回の行為に対して正しい認識・評価をしている人間は絶対に今回の行為は許さないと思う。


って、5月の司法試験がこれを契機に面倒くさいことになるかもしれないことに実は嫌だと思っているにーやんなのであった。
金かけて機械で電波遮断してくれれば、これまで通りでいいのになぁ。

■ 早稲田大学が合格者を取消した件について

逮捕の予備校生?回答酷似、早大が結果を無効に

 京都大など4大学の入試問題がインターネット質問掲示板「ヤフー知恵袋」に投稿された事件で、早稲田大学は4日、英語の試験問題がネットに流出したことが判明した文化構想学部の入試について、投稿された「回答」と酷似した答案が1枚見つかり、その受験生の結果を無効にしたと発表した。


 この受験生は逮捕された予備校生とみられるが、早大は「警察から予備校生の情報はもらっていない。無効にした受験生の情報は明かせない」と話している。

 早大によると、2月12日に行われた文化構想学部の英語の試験時間中、英語文を英語1文に要約する問題で、日本語で解答案を作成し、その英語訳を依頼する「aicezuki」のハンドルネーム名での投稿があり、英語文の「回答」が投稿された。

(2011年3月4日22時42分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110304-OYT1T01091.htm?from=top

さっき、カンニング行為が失敗したんじゃないかと言ったけれど、早稲田に合格していたとすると、早稲田のカンニングは成功だったのかもしれない。
が、色々問題がある。
果たして、今回のカンニングをした者とこの早稲田の不合格者が同一人物であるのか?ってことだ。
早稲田は早々にこんなことを表明してしまったが、仮にこれが本当に投稿された「回答」と酷似しただけを理由に合格から不合格にした結果、実は間違ってました。なんてことになったら、一番の被害者は間違って不合格とされた者だ。


が、これは予測を超えないものの、たぶん同一人物なんだろうなと推測してます。
確かに、少年法で保護されているカンニング行為で逮捕された者の情報を、警察から教えることはできないのだろう。捜査中ってこともあるし。
ただ、早稲田が逮捕された少年を知らないとは考えられない。多分、京大は既に犯人の目星を付けているだろうし、そういった情報は大学間においても共有されている可能性も高い。それだけじゃなく、報道陣は知っているので、ここから情報を得ているだろう(コメント欲しさに情報を伝えることは当然あるだろうし、それが犯罪行為)。
しかも、このカンニング答案から回答者は特定できるわけで、その親に確認すれば、たいてい

すんませんでした。バカ息子逮捕されますた。

って親は真実を語るだろう。逮捕されていない犯人かどうかもはっきりしない段階で息子をかばうことはあっても、すでに逮捕された少年をかばうことはないだろうし、そもそも逮捕された事実を隠し通すことなんて不可能だ。


ということで、多分こう言うことだと思う。

早稲田は報道関係者等から犯人を知る
    ↓
犯人の親に確認の問い合わせをする
    ↓
親「ごめんなさい。バカ息子(略)。」
    ↓
報道関係者から教えてもらったことを言えないから、ヤフー知恵袋と酷似したって理由で発表しちゃおう

だから、この記事でも「警察から情報をもらっていない」とあるだけで、「報道関係者から情報をもらっていない」とはされていない。身内が犯人をバラしてるなんてことになると批判されるだろうから、そこはソッとしているんだろう。わかります、間違った同胞意識ですね。


ネット上では、aicezukiの実名が囁かれているらしいが(ググれば出てくるが、ここではあえて明らかにしない)、その真偽は不明。
ただ、この真偽がわかるのが早稲田等の今回問題になっている大学だ。
ここで噂になっている人物の答案を照合して、ヤフー知恵袋の回答と酷似している場合、犯人と同一人物の可能性は格段に高まる。数ある答案の中にはヤフー知恵袋と無関係にそれと類似の答案がある可能性も出てくるが、それが噂されている人物と同一人物のものだということになると、単なる可能性ではなくなるからだ。経験則上、そのような一致する偶然は限りなくゼロに近いといえるからだ。
さらに、絞りをかけて、その人物が今どうなっているのかを確かめれば、これが確信にかわる。それができるのは大学や逮捕された少年の周囲の人間だけだろうけれども。


ただ、多分この逮捕された予備校生ってもともと早稲田に(ギリギリ)受かるくらいの頭はあったんじゃないかな?確か、ヤフー知恵袋で早稲田の問題が出たのは1問だけだったはずだし。それが何点なのかは知らないけれど、それ以外は自力で解いた(はず)ってことだろうから。



それにしても、高校の頃に担任教諭からは早稲田や明治は「少し厳しいかな」と言われていたらしいけれど、俺なんて「行ける大学はない」って感じだったから、それに比べれば全然ましだろオイって感じだな。なのに、こんなハイリスクな行為に出るなんて、ほんまアホやなぁ。
ネットはテレビ以上の公知性のある媒体なわけで、ヤフー知恵袋の投稿って、それこそ全世界の人間を対象に発信する行為なわけよ。試験時間中にそんなことやったってことになったら問題になることは確実に予見できたはず。バレないだろうと思ったのかもしれないけれど、その認識は甘すぎる。


司法試験の勉強を兼ねて法的論点をまとめるのがメインだったはずなのに、なんかそれ以外のことがメインになってしまった。

*1:東京高判昭和48年8月7日高刑集26巻3号322頁

*2:最判昭和28年1月30日刑集7巻1号128頁

*3:大判昭和11年5月7日刑集15号573頁、広島高松江支判昭和30年2月28日高集8巻2号126頁、東京高判昭和58年3月31日判時1090号180頁

*4:最決平成6年11月29日集48巻7号453頁