「自分で自炊OK 業者に自炊委託は違法」ってどういう論理やねん!?の巻

■書籍電子化:「自炊」行為代行で質問書 作家ら122人

 作家や漫画家122人と出版7社は5日、書籍を自ら電子化する「自炊」行為を代行する業者約100社に対し、作家側からの許諾なしに代行するのは著作権侵害の疑いもあるとして、質問書を送った。「無許諾で収益還元のない書籍のスキャン事業が既成事実化し、著作権保護技術の施されていない電子データが大量に出回れば、作家・出版社への影響は深刻」としている。

 差出人には、五木寛之さんや里中満智子さんら人気作家、漫画家と講談社集英社など出版社が名を連ねた。


 発表によると「自炊」は著作権法第30条の「私的使用のための複製」にあたり認められるが、専門業者による大規模な代行は、使用者の複製には該当せず許されない▽多くの自炊代行業者はサイト上で「著作権者の許可を得た書籍のみ受け付ける」と定めているが、作家側は許諾を与えたことはない▽「私的使用」を超えた電子データ流出の恐れがある−−と主張している。


 そのうえで、今後も事業を継続するか▽私的使用であることの確認方法−−などをただしている。


 スキャン代行業者は、1冊100円ほどからサービスを提供。現在は約100社に急増しているという。【広瀬登】
http://mainichi.jp/select/today/news/20110906k0000m040016000c.html


あぁあ。
いつかこんな騒ぎが起こるやろな〜、って思ってたら案の定……


いわゆる自炊とは、紙の書籍や雑誌を、電子デバイスで読めるような形式に自分で変換することをいう。

■自炊データ

知恵蔵2011の解説によると自炊データについて、以下のように記述されている。

 紙の書籍や雑誌を、電子デバイスで読めるような形式に自分で変換することを「自炊」と、その作成されたデータを「自炊データ」と言う。
 iPhoneKindleの登場で電子書籍リーダーは注目をあびている一方、市販の電子書籍コンテンツとなると、英語のコンテンツがほとんどで、日本語への対応は未成熟だ。そのため、電子書籍リーダーユーザーの中には自ら所持している紙媒体のデータを電子化して、電子書籍リーダーで読むという行為が流行し始めている。自分で材料(書籍や雑誌の紙媒体)を用意し、電子書籍リーダーで読める形式の完成形までを、自らで「料理」することから、「自炊」と呼ばれるようになった。
 電子書籍リーダーで読める形式というと、通常はEPUBなどの高機能なデータ形式が主体だが、自炊データに関してはPDF形式が主流になっている。PDF形式は電子ブックに特化したEPUBと比べると使いにくい部分もあることは否めないが、長年熟成されてきたシンプルな形式であるため、周辺ツールも充実しており、画像ファイルをまとめるのに手間がかからないためだ。
 紙媒体の「自炊」は、まず本の分解から始まる。中閉じの週刊誌や、背表紙が接着剤で固められている書籍は、そのままではスキャンしにくいので、裁断機で背表紙部分を取り除く。分解された書籍は1枚ごとにスキャナに通すことも可能だが、手間が煩雑なため、数十枚の原稿の表裏を、自動的にスキャンし、パソコン上に画像ファイルとして保存できるドキュメントスキャナーが使用されることが多い。最後に画像データをPDF化して複数のページを1つのデータにまとめ上げて、自炊データが完成する。自炊データを作成するのが面倒な場合には、自炊代行業者も存在している。
 近年になって自炊が流行したのにはいくつかの理由がある。電子書籍リーダーの普及も一因だが、住宅事情によるところも大きい。書籍やパンフレットなどは紙のままで保存するにはそれなりのスペースが必要だが、電子化がこの問題を解決する。また持ち歩くには限界のある紙媒体でも、電子化することによって質量ゼロというメリットもある。自炊データを用意することによって、パソコン、iPad、携帯電話やスマートフォンといった様々なデバイスでの閲覧が可能になることも「自炊」を後押ししている。クラウド上に保存しておけば、手元にデータを置いておくことすら不要だ。
 自炊データの種類は小説から雑誌やカタログまで幅広いが、電子ブックリーダーと相性の良い、コミックスはもっとも人気のある自炊素材だ。コミックスファンには、衆人の中でも人目を気にすることなく読書できるという利点もある。
 個人購入した雑誌や書籍を自炊データとして利用することは、著作権的には認められている。しかし、裁断した書籍のすべてを人に譲ったり、販売したりした場合には、作成した自炊データも消去しなければならない。つまり、合法的に自炊データを利用するには、紙媒体の一部分は、保存しておくことが必要だと考えられている。
( 佐橋慶信  ライター )
http://kotobank.jp/word/%E8%87%AA%E7%82%8A%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF

勘違いしている人もいるが、自炊自体が著作権法上違法というわけではない。


例えば、自分で買ったAKB48のCDをMP3などのデータに変換して愛用のiPodで聴いたからといって違法と思わないだろう。書籍のデータ化も同様だ。
それは著作権法30条によって適法となるからだ。


本来、他人の著作物(音楽、アニメ、漫画など)をコピーする行為は、それが電子データであれ、紙媒体であれ、複製権という著作権を侵害する行為に該当する。
したがって、このような行為は原則として著作権者の権利を侵害するということになる。
ところが、著作権法30条1項には、

 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

と定められている。
要するに、個人的な複製(コピー)は著作権侵害になりません、って規定だ。
したがって、この限りで著作権者の有する複製権は制約されることになる(権利制約)。


で、今回の件にあてはめて考えると、いくつかのパターンが考えられる。

  1. 自分の買った漫画を自分で自炊する
  2. 自分の買った漫画を業者に頼んで自炊する
  3. 友達から借りた漫画を自分で自炊する
  4. 友達から借りた漫画を友達に無断で業者に頼み自炊する

1は著作権法30条1項により適法な行為であり、問題ない。
3は友達から借りた漫画だから、その漫画を勝手にバラバラにして自炊すると、著作権者(漫画家)以前にその友達が怒るだろう。
これは友達の所有する漫画をバラバラにする行為が友達の有する漫画の所有権侵害になる。
しかし、これは著作権の問題で捉えると、やはり著作権法30条1項により適法。つまり、友達に対する所有権侵害の有無は別として、漫画家等の著作権侵害にはならないということだ。


問題は2で、これは著作権法30条1項の解釈の問題になる。
半田正夫=松田政行編 著作権法コンメンタール2(2009)155頁には、以下のように書かれてある。

 他者に委託して行われる複製が30条の対象外となることは従来からほぼ一致した見解であり,委託を受けた者が複製の主体であるから,と説明されている。

つまり、著作権法30条1項によって適法となるためには、「その使用する者が複製する」ということが要件とされており、それ以外の者、すなわち委託を受けた業者が複製するのはこの要件を欠くため著作権法30条1項の適用がないということである。


したがって、この通説的見解に従う限り、業者に委託して自炊する行為は著作権侵害となりそうである。
となると、2の行為は著作権侵害ゆえ違法と言わざるを得ない。
そうなると、4の行為も著作権侵害となり、同時に友人に対する所有権侵害となる。


ただ、本来自分でするところを第三者に頼んだだけでここまで結論が変わるのは変な感じがしないだろうか?
部屋の掃除も金さえあれば誰かに頼める時代。
そんな時代に、自分で自炊しないのがダメって変じゃないか?


普通の人ならそんな風に考える人もいるだろう。
で、その感覚は間違っていない。
現在、カラオケ法理といわれる考えが一般化されており、同書には以下のような記述もなされている。

 しかし,著作物の利用主体については,最判昭63・3・15(民集42巻3号199頁―クラブ・キャッツアイ事件最高裁判決)以来,管理支配性と利益とによって規範的に決定すべきとする解釈が定着しており,そうした規範的な利用主体の判断基準からすれば,具体的な複製の対象たる著作物等を指定し受託者をして当該著作物等を複製させる委託者が,むしろ規範的な意味での複製主体と解すべきであるように思われる。

このように考えると、業者に頼んで実際に自炊しているのは業者だとしても、規範的には委託した者による自炊と同視できる。
委託者による自炊とみることができるなら、「その使用する者が複製する」という要件を満たし、30条1項の適用が認められ適法といえる(上記の筆者は反対)。


普通に考えたら、自分の漫画くらい焼こうが茹でようが電子データにしようが自由にさせてくれてもいいんじゃないかと思う。
小難しい法律のせいで、「焼いて灰にするのはいいが、業者を介して自炊するのはダメ」とか意味不明である。しかも、自分で自炊するならばいいとか。


もちろん、懸念されていることも理解できないわけではない。
30条1項による権利制約は、本来的には著作権者の権利をおびやかさない程度の複製であることを前提としている。
CDを購入した人がそれを個人的にMP3で聴いたところで、著作権者に対して影響は小さい。
本条は、そんな閉鎖的な私的領域内の零細な複製を許容することで私的自由を保障している。


しかし、だからこそ自分の有する漫画くらい自由にデータ化しても許されていいんじゃないか?
ニュース記事には、「私的使用」を超えた電子データ流出の恐れがあるということを危惧している。
確かに、自炊したデータをネットにアップしたりして、第三者に当該データを提供する行為は違法である(公衆送信権侵害)。
しかし、それは自分で自炊したデータか第三者に委託して自炊したデータかには無関係な事実だ。
そもそも、公衆送信権侵害をした人間が非難されることであって、そんなことをしない者の行う自炊自体を規制する理由にならない。自炊と公衆送信権侵害行為はまったく別の行為だ。
「ホラー映画とかなんかグロイゲームとか好きな奴は人を殺す危険がある」って論理に似ている。しかし、なんの因果関係もない。


そもそも、個人でも自炊の機材をそろえれば大量に自炊できる。そして、自分の有する書籍である限り、自分でいくら自炊しても適法だ。
なのに、第三者に委託して自炊するのは違法って、変じゃないか?


スマートフォンiPadなどの普及によって、電子書籍が普及しつつある。
しかし、このIT社会のご時世にまだ紙媒体を主流としている。
にもかかわらず、この時代に逆行するような法制度でいいんだろうか?


活版印刷時代の複製権中心の著作権法はもう限界なのは明らかだろう。
情報を誰もが享受できる環境が整いつつあるのに、情報を流通しにくくしようとする法制度は正しい権利保護のあり方とはいえない。


著作権法1条は著作権者の保護だけを目的とはしていない。

 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権者保護は「文化の発展に寄与」するための手段に過ぎない。
にもかかわらず、それを度外視した立法が多い。
ダウンロード違法化も同じだ。
違法化しさえすればすべて解決するというわけではない。
根本的な問題は適切な対価の環流を現実的な手段としてどう図るかだ。
違法なダウンロードを事実上把握できない(例えばキャッシュファイルのコピー)現行法はザルすぎる。


現代社会に適合した正しい著作権法にしなければ、さらに技術と法制度の乖離が大きくなるだろう。


あ、なんかいつものごとく欠陥だらけの著作権法に苛立ちを隠せなくなってしまっている。


そういえば、スキャナーで読み取れない書籍で販売すればいいとか2ちゃんねるで言っている人がいたけれど、それだと1000円くらいの書籍が1万円以上の値段になるから現実的じゃない。
そもそも、「紙」中心の社会がいつまで続くのか。
良いか悪いか別として、場所的な問題から行政文書は多くが電子データ化されたりしているし、一般企業ではもっと徹底しているところもある。


そんな時代に適合できてない法制度で混乱しているのがネットを見ているとよくわかる。


ちょっと勉強した人で、著作権法で著作者が保護されているから著作権法を守るべきと思っている人も少なくない。
間違えというわけではないけれど、その保護の「あり方」について問題点も少なくない。


もっと著作権法について議論すべきだってところに行ってないから、選挙でも争点にならないんやね。
でも、アニメなど日本には力強い知的財産がゴロゴロあるわけで、戦略的にももっと議論されていいはずだ。
そういうのは、じいさんばあさんより若い人が中心にならないと、やっぱり盛り上がらない。
でも、若い人は選挙行かない。だから、争点にならないし、著作物の利用者たる国民ではなく、企業の圧力の方が政治家を動かす原動力になってしまっている。
そういう連鎖もあってか、ダウンロードの違法化もそれほど話題にならないまま、現在に至っている。ごく一部ではずっと白熱しているけど……
このままでいいんかねえ?著作権法……