【勉強の記録】出そうだゼ!法人格否認の法理と民事手続絡みの問題。の巻【残り352日】

まいど〜。


今日も上位合格目指しながら、ぼちぼち頑張ってますわ〜。


それにしてもずっと雨降ってた。雨は嫌いじゃない。おうちにいる限り。ということで、おうちに引きこもりました。


って、雨とか関係なしに、ずっと引きこもってたわ。



民訴の問題を解いていたら、民事訴訟手続と法人格否認の法理の関係を問う問題が出てきた。
H17判例は知っていたけど、いまいち民事執行の話で理解不十分な感じだった。


そこで、この前買った中野民事執行・保全入門を見てみる。
おお、なるほろ。既判力においては法人格否認の法理が適用されないという判例はあったが、これとH17との違いがいまいちだったけど、中野入門に、事案と問題となっている手続がわかりやすく整理されてた。
ただ、入門といっても、初学者に対して懇切丁寧な説明がされているわけでもない。が、クロスレファレンスが十分になされているから、行ったり来たりすれば語句の意味なんかでつまずくこともないか。

■法人格否認の法理と既判力・執行力の拡張

この問題を理解するには、次のケースさえ押さえておけばよい。

①X→Y社の訴訟で、X勝訴(5000万円の給付判決)
②Y社がXからの執行を逃れるため、Z社を設立して財産をY→Zに譲渡した形をとり所有権を移転しつつ、その譲渡財産(工作機械等)を引き続きYにおいて使用

1 執行文付与の訴えの許否

この事案で、Xは、法人格否認の法理を理由に、Yに対する①の給付判決の効力がZにも及ぶと主張して執行文文付与の訴えをすることができるか。
S53判例は、訴訟手続の明確性、安定性という訴訟法上の基本原則から、法人格否認の法理の適用による執行力の拡張を認めなかった。よって、XのZに対する執行文付与の訴えは許されないことになる。

2 第三者異議の訴えにおける法人格否認の抗弁の許否

これに対して、Xは、Zの所有とはいえ、Yが占有している機械なんかを差し押さえることはできる(これはYに対する債務名義で可能)。

執行対象の特定方法と第三者の保護

というのも、金銭執行では、執行債権者が執行申立において執行対象となる財産を一方的に特定するという建前になっている。ということで、動産執行なら債務者の占有があれば、適法に差押えができる(民執123条)。
もちろん、それが債務者の財産でないと、執行対象の適格を欠いているということで執行できないはずである。金銭執行の対象となるのは、執行開始の時点で執行債務者に属している財産である。
例えば、差押え前にすでに債務者から第三者に譲渡されていた場合、執行対象とされた財産の所有権が第三者に移転しており債務者に属する財産でなくなっていることもある
。このような場合、本来、その財産は執行対象としての適格を欠くため執行できない。
そこで、民事執行法では、形式的な外観による判定だけで執行し、文句が出てくればそれは権利者によって第三者異議の訴えで是正できるような仕組みがとられている。

というわけで、話を戻すと、Yに対する動産執行としてなされた差押えにZから第三者異議の訴えを提起して、強制執行を排除することはできるのかがここでは問題となる。
法人格否認の法理が使えないとすれば、第三者の所有物に対する執行ということになり、執行債務者に対する債務名義による執行はできないことになりそうだ。
これに対して、Xにおいて法人格否認の法理を主張すること(法人格否認の抗弁)が認められれば、この事案限りにおいて「Y=Z」と見ることができるので、Zの第三者異議の訴えを封ずることができそうだ。
H17判例は、このXの主張する法人格否認の抗弁を認めた。すなわち、Zが別個の法人格であると主張して強制執行の不許を求めることは許されないとして、Xの主張する法人格否認の抗弁を主張することを許した。


いずれにしても、Xとしては、詐害行為取消権を行使し、YからZへ譲渡された財産をYの責任財産に戻した上、Yに対する確定判決で強制執行することはできる。ただ、Xには新訴提起の負担を強いられるというデメリットがある。


法人格否認の法理はもっぱら会社法で学ぶけれど、新試民事系が融合問題であることからすると、こういった問題は出そう。しかも、既判力、執行力といった判決の効力といった基本事項に関するものだし、執行法の基本的知識も問うことができる。まぁあたくしには、この基本的知識が欠けていたなぁと問題を解いてて実感できました。
しかも、法人格否認の法理は民訴上の当事者確定の問題とも関係するし、詐害行為取消権も絡めることもできる。
こんなにも重なるものがいっぱいな、法人格否認の法理。これは今のうちに押さえておきたい!

最高裁平成17年7月15日第二小法廷判決

 甲会社がその債務を免れるために乙会社の法人格を濫用している場合には,法人格否認の法理により,両会社は,その取引の相手方に対し,両会社が別個の法人格であることを主張することができず,相手方は,両会社のいずれに対してもその債務について履行を求めることができるが,判決の既判力及び執行力の範囲については,法人格否認の法理を適用して判決に当事者として表示されていない会社にまでこれを拡張することは許されない。
 ところで,第三者異議の訴えは,債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく,執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものである。そうすると,第三者異議の訴えについて,法人格否認の法理の適用を排除すべき理由はなく,原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。
 これを本件についてみるに,前記事実関係等によれば,A 社は自己に対する強制執行を回避するためにX の法人格を濫用しているというのであるから,法人格否認の法理が適用され,本件第三者異議訴訟において,X はA 社と別個の法人格であることを主張して……各強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。

三者異議の訴えの法的性質は、特定の債務名義につき特定の財産に対して強制執行が許されないことを宣言する判決を求める形成の訴えというのが多数説(形成訴訟説)。
形成訴訟説によると、認容判決確定によって、執行対象とされた特定の財産についての執行力が排除されるという形成力が生じるとする。
で、その訴訟物は、原告である第三者が特定の財産につき債務名義の執行力の排除を求め得る地位(異議権)を有するとの法的主張と解されている(中野・執行入門271頁)。
この考えと、この判例が言う「第三者異議の訴えは,債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく,執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものである。」っていう考えはどう見ればいいのか。
判タみても、重判みても、みんなバラバラな感じでよくわからん。判例の言う「第三者異議の訴えは,……強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるもの」って考えと、形成訴訟説のいう「原告である第三者が特定の財産につき債務名義の執行力の排除を求め得る地位(異議権)を有するとの法的主張」って違うのか?「第三者異議の訴えは,債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではな(い)」という意味が問題。
単純に比較すると、異議権が執行力の排除を求め得る地位の主張ということで考えると、この判例の言い回しに抵触するようにも思える。
しかし、これは、法人格否認の法理の効力が執行力や既判力まで拡張しないという従来の判例に配慮して、第三者異議で法人格否認の法理を適用することと従来の判例の立場と矛盾しないことを指摘したかったからこういう言い回しになったんだろう。
三者異議の訴えを執行力の範囲の問題と設定すると、判例の立場からすれば法人格否認の法理による拡張が否定される結果、執行力が別人格の法人にまで及ばないという立論が成り立ってしまう。
が、判例は、第三者異議の訴えにおける異議事由が、「執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないこと」にあるとした。
ここで言う「強制執行による侵害を受忍すべき地位」かどうかを実体法上の問題と解することで、判例の立場を前提としても法人格否認の法理も使えるって言いたかったんだろう。


まぁここまで深い問題は出ないだろうけど(願望)。