【予想外】裁判員制度のドキュメンタリーを見たが予想と違った。の巻【死刑判決】

NHKスペシャルの、
裁判員制度がはじまる 今夜とことん考えます「あなたは死刑を言い渡せますか〜ドキュメント裁判員法廷〜」
を見た。


模擬裁判なわけだが、実際にあった強盗殺人の事件をモデルにした裁判員裁判


裁判員制度は2009年(平成21年)5月21日に施行され、同年8月3日に東京地方裁判所で最初の公判が行われたわけだが、
未だに裁判員裁判で死刑判決は出ていない。


数少ない裁判員裁判を見た限り、必ずしも従来よりも軽い量刑という傾向なわけではない。が、それでもまだ死刑が出ていないというのは、そもそもそういう極刑に値する事件がないのか、無期懲役までなら出しやすいということなのか、いまいちはっきりしていない。


そういう認識で、このドキュメンタリーを見たわけ。で、当初の予想は、「死刑」出す勇気ないだろ、みたいな感じだった。
このドキュメンタリーは、かなり真剣に取り組んでて、「模擬裁判だから」みたいな軽い感覚は一切なかった。
で、結論は……


     死刑


うおー。まじかー!!!!
結構、きわどい事件だったわけだけれど、自分的には死刑に賛成する事案だった。でも、これまでの裁判員裁判の傾向からすると、一般的には極刑まではいかないかなと思ってた。
実際、かなりやりとりがあって死刑となったわけだが、ちょっとびっくり。まぁ模擬裁判だけれど。


でも、そのやりとりをみてたら、やっぱり裁判員制度ができてよかったなと思った。
そりゃ死刑判決を出したくない人とかもいるので、裁判員制度に問題が一切ないというわけじゃない。色々ありそう。


それでも、これまでのえん罪事件や、判険交流(判事と検事を交換し合うこと)という構造的に歪なシステムがあること、実際に証明力が低いにもかかわらず検察官の主張する事実を採用することがあること(袴田事件の認定とか。えん罪事件以外でも多い)などを考えると、このような裁判員を加えてプロセス的に恣意を介在させる余地を減らすことは正解だったと思った。
修士時代に刑訴の先生が再審事件に関心があって、判例を検討してたときには、「ちょっとムリな事実認定しすぎだろ」と思うものも多かった。無罪推定の原則はどこへいったんだと。
例えば、袴田事件では、犯人の衣類として証拠とされた犯人のズボンを被告人である袴田さんははくことができなかった。小さすぎて太ももが入らない(写真参照)。写真を見ればズボンが上がりきっていないことがわかる(腰パンですらないこんな状態で人殺しできるとは思えないが……)。はけないズボンは袴田さんのものではないはず。

袴田事件が「はけないズボンで死刑判決」と言われる所以である。
こんな不自然な事実認定が第一審でされても、本来ならば上訴審で正しい事実認定がなされることで誤りを是正できるはずである。
が、事後審たる性格ゆえ難しいみたい。結局控訴も棄却され、上告審である最高裁も、被告人の上告を棄却した理由は

 いずれも事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法405条の上告理由にあたらない。
 なお、記録によれば、第一審判決摘示の犯罪事実を認めることができるから、これを維持した原判決には事実の誤認はない。その他記録を調べても同法411条を適用すべき事由は認められない。

これだけ。

そのため、第一審の事実認定は極めて重要だ。


もちろんこんな事件ばかりじゃないけれど、少なくとも恣意的な事実認定を排除することができるという点で、裁判員制度はかなり成功していると思う。
もっとも、証拠採用に関しては、公判前整理手続次第なところもあるのかもしれないので十分だとまでいえないけれど、制度的にはこれが限界かも。サリン事件の浅原の公判だと、とても3日で判決まで持って行くことなんてできないだろう。


あと、個人的には、死刑制度なんかの「刑罰」の限界をこのドキュメンタリーで感じることができた。こういう制度的限界は国民が関心を持たなければ従前の制度のままだ。

また、裁判員制度で無罪推定の原則なんかの当たり前の法原則が浸透するかもしれない。マスコミ等の報道ではそんな原則はむしろ例外だったりするのが現実だから、これは結構大きいと思う。
国民が、死刑制度や、犯罪の認定ということを考える動因になるという意味でも、裁判員制度はかなり意味があるんじゃないか。


ただ、どうして重大犯罪のみに限定したのだろう。痴漢事件みたいなものから開始した方がよかったんじゃないか?実際にこういう事件においても裁判員制度による意義はあったと思うのだけれど…


それにしても、最近、足利事件をきっかけにしてかはわからないけれど、重要な事件の再審が開始されそうな雰囲気。最近、袴田事件の映画も作られたりしてるし。←かなりおもしろそう。
えん罪事件じゃないかと言われている有名な事件に名張毒ぶどう酒事件がある。
この前も最高裁が、再審を開始しないとして高裁の判断を否定してたし。

名張毒ぶどう酒事件

名張毒ぶどう酒事件(なばりどくぶどうしゅじけん)とは、1961年3月28日の夜、三重県名張市葛尾(くずお)地区の公民館で起きた毒物混入事件。5人が死亡し、「第二の帝銀事件」として世間から騒がれた。容疑者として逮捕・起訴され、死刑が確定している奥西勝(おくにし・まさる)は、現在も無実を主張し再審請求中。

事件を調査した評論家の青地晨は、自著の中で、「現場地域の保守性・閉鎖性」を指摘している。

事件経過

1961年3月28日、三重県名張市葛尾の薦原地区公民館葛尾分館(現存しない)で、地区の農村生活改善クラブ(現「生活研究グループ」)「三奈の会」[1]の総会が行われ、男性12人と女性20人が出席した。この席で男性には清酒、女性にはぶどう酒(要はワイン。当時の呼称である)が出されたが、ぶどう酒を飲んだ女性17人が急性中毒の症状を訴え、5人が亡くなった。捜査当局は、清酒を出された男性とぶどう酒を飲まなかった女性3人に中毒症状が無かったことから、女性が飲んだぶどう酒に原因があるとして調査した結果、ぶどう酒に農薬が混入されていることが判明した。

その後、重要参考人として「三奈の会」会員の男性3人を聴取する。3人のうち、1人の妻と愛人が共に被害者だったことから、捜査当局は、「三角関係を一気に解消しようとした」ことが犯行の動機とみて、奥西を厳しく追及したところ、4月2日では自身の妻の犯行説を主張していたが、4月3日には農薬混入を自白したとして逮捕された(逮捕直前、奥西は警察署で記者会見に応じている)。しかし、逮捕後の取り調べ中から犯行否認に転じる。

裁判の経過

確定判決
1964年12月23日、一審の津地方裁判所(小川潤裁判長)は自白の任意性を否定しなかったが、目撃証言から導き出される犯行時刻や、証拠とされるぶどう酒の王冠の状況などと奥西の自白との間に矛盾を認め、無罪を言い渡す。検察側は判決を不服として名古屋高裁に控訴した。

1969年9月10日、二審の名古屋高裁は一審の判決を覆して奥西に死刑判決。目撃証言の変遷もあって犯行可能な時間の有無が争われたが、名古屋高裁は時間はあったと判断、王冠に残った歯形の鑑定結果も充分に信頼できるとした(ただし、王冠に残った痕跡から犯人の歯型を確定するのは不可能である、とした法医学者も居た)。奥西は判決を不服として最高裁に上告した。

1972年6月15日、最高裁は上告を棄却。奥西の死刑が確定する。

ウィキによると、こんな事件。
和歌山カレー事件と、
①毒物が混入された飲食物による死亡事件であること
②直接証拠が亡く、争点が被告人による犯行以外にありえないかどうかだったこと
という点で、似ている。
しかし、名張毒ぶどう酒事件は、和歌山カレー事件と異なり、主要な間接証拠である第三者の証言に変遷があり信用性が低かったり、自白の任意性にも疑いがある事案だった。


で、1974年から裁判のやり直しである再審請求をしていた。
ここでは、証拠とされた毒物である農薬と被告人の保有していた農薬が同じかどうかが争点とされた。
というのも、現代技術との比較で考えると、当時の科学技術ではその認定のされ方が「おおざっぱ」で、正確性に信憑性が疑われうるものだったため、最新技術でもう一度やり直した結果、証拠とされた被告人保有の毒物と一致しない可能性が出てきたからだ。


平成18年12月26日、名古屋高裁は再審請求を棄却。これに対して、最高裁は2010年4月5日にこの名古屋高裁の判断を審理不尽として破棄し、審理を名古屋高裁に差し戻した。差し戻しただけで、これは要するに、もう一回再審を開始するか判断し直すってことだけを意味する。よって、再審が開始されるわけではない。が、開始される可能性は高い。

最高裁判所第三小法廷平成22年4月5日決定裁時1505号16頁

(2)中略
ア 原判断は,要するに,対照検体,事件検体共にトリエチルピロホスフェートが含まれていたとしても,トリエチルピロホスフェートの捕捉量が少なかったために,対照検体ではRf0.58のスポットが「うすく」しか検出されず,事件検体ではそのことに加えて対照検体以上に360倍ないし450倍に希釈されていたことから,絶対量が少なく,Rf0.58のスポットが検出されなかったと考えられる,というのである。しかし,原決定の説示するところでは,対照検体についてRf0.58のスポットが「うすく」しか検出されなかったことの合理的説明ができない上,事件検体についても,上記のように希釈されていたとしても,エーテル抽出を経て濃縮されているのであって,各成分のモル比,重量比を考慮すると,TEPPとDEPは現に検出されているのに,トリエチルピロホスフェートのみが検出限界を下回って検出されなかったことの理由も合理的に説明できないと思われる。
 すなわち,J鑑定によると,本件時に近い状態として,ニッカリンTを12%エタノール含有pH3の重水中に溶解して4℃で2日間保管した実験では,TEPP,トリエチルピロホスフェート,DEPのモル比(括弧内に重量比を示す。)は,溶解直後においては26.8(35.9):13.7(16.6):19.6(13.9)であったが,2日後においては18.6(26.5):12.9(16.6):30.9(23.3)に変化している。溶解直後のモル比は三重県衛生研究所の対照検体に対応するものと考えられるところ,トリエチルピロホスフェートとDEPの分子量は大きくは異ならないこと(J鑑定の別の実験によれば,加水分解前のニッカリンTのトリエチルピロホスフェートとDEPのモル比は15.1:14.9でほぼ同じとの結果も示されている。),関係証拠によれば,トリエチルピロホスフェートの方がDEPよりも抽出効率が良いとされていることに照らすと,原決定の説示では,トリエチルピロホスフェートのスポットの方がDEPよりも薄く,かつ,小さかったことの合理的説明ができない。次に,事件検体の関係について考察すると,J鑑定における2日後のモル比は事件検体におおよそ対応するものと考えられるところ,TEPPを1として計算した場合,トリエチルピロホスフェートとのモル比は1:0.69,重量比は1:0.63という関係にあり,トリエチルピロホスフェートの量がTEPPに比べてはるかに少ないというのであればともかく,モル比にして約7割,重量比にして約6割の量があるのであるから,抽出効率の点を考慮しても,量の点のみからは,TEPPが検出されてトリエチルピロホスフェートが検出されなかったことの理由も合理的に説明できないと思われる。また,DEPとの関係においても,DEPを1として計算した場合,モル比は1:0.42,重量比は1:0.71という関係にあり,トリエチルピロホスフェートの方が抽出効率が良いことも考慮すると,量の点のみからは,DEPが検出されてトリエチルピロホスフェートが検出されなかった理由も見いだし難いものと思われる。
イ なお,所論は,原決定のような見方が成り立つとする場合,三重県衛生研究所論文の第1図の1(事件検体)のRf0.48のDEPとRf0.95のTEPPのスポットの大きさや色の濃さは,第1図の2(対照検体)よりも小さく,かつ,薄いものでなければならないはずであるが,第1図の1と2のRf0.48とRf0.95のスポットの大きさや色の濃さに違いはなく,この両者のスポットを比較すれば,事件検体と対照検体で,TEPPやDEPに関する限り全く同じように検出されていることになるのであって,これを前提にすると,原決定が説示するように,事件検体の方が希釈倍率が高かったため,その影響でTEPPやDEPは検出限界を超えたが,トリエチルピロホスフェートはそれに達しなかったので検出されなかったなどと考えることはできない,と主張する。この点については,三重県衛生研究所論文の第1図の3及び4には,L「TEPPの証明法について」の付図(3)の〈1〉及び〈6〉のペーパークロマトグラフが引用図示されているところ,同論文のRf0.95,0.58,0.48に対応する各スポットの大きさは,三重県衛生研究所論文の第1図の2の対照検体のスポットの大きさと異なっているにもかかわらず,引用図示されたものは,第1図の2と全く同様に描かれており,どの位置にスポットが出たかを図示したものと推測される。第1図の1の事件検体についても,同様に推測することも可能であり,そのスポットの大きさには疑問がないではない。いずれにせよ,原決定は,この点についての検討も欠けている。
(3)以上によれば,原決定が,本件毒物はニッカリンTであり,トリエチルピロホスフェートもその成分として含まれていたけれども,三重県衛生研究所の試験によっては,それを検出することができなかったと考えることも十分に可能であると判断したのは,科学的知見に基づく検討をしたとはいえず,その推論過程に誤りがある疑いがあり,いまだ事実は解明されていないのであって,審理が尽くされているとはいえない。これが原決定に影響を及ぼすことは明らかであり,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。
(4)ところで,検察官は,この点について,M作成の回答書等に基づき,答弁書において次のとおり主張している。
ア 三重県衛生研究所の対照検体において,トリエチルピロホスフェートはTEPP及びDEPのスポットよりも小さく,かつ,薄くしか検出されなかった。これは,TEPPとの関係では,トリエチルピロホスフェートが,抽出前の状態でTEPPよりも分子の数が少なく,かつ,抽出効率もTEPPよりも悪いため,検液の中に含まれる分子の数がTEPPよりも少なく,さらに,発色反応がTEPPに比べて非常に弱いからである。また,DEPとの関係では,トリエチルピロホスフェートが,抽出前の状態でDEPの分子の数と大して異ならず,かつ,抽出効率はかえってトリエチルピロホスフェートの方が良いにもかかわらず,上記のように検出されたのは,トリエチルピロホスフェートがDEPに比べても発色反応が非常に弱いからである。すなわち,トリエチルピロホスフェートは,分子構造上持っているOHが発色剤の水との水素結合によって安定化しているため,過塩素酸という加水分解の反応促進剤によっても加水分解しにくい性質を持っている結果,トリエチルピロホスフェートからはリン酸が放出されにくく,TEPPやDEPに比べて発色反応が弱くなるのである。
イ さらに,本件ぶどう酒に添加されたのがニッカリンTであることを前提として考察すると,事件検体は,対照検体よりもニッカリンTの濃度が低く,添加時のTEPP,トリエチルピロホスフェート,DEPの各分子の数の絶対量が対照検体より少なかったと考えられるところ,事件検体は対照検体と異なり,ニッカリンTが添加されてからペーパークロマトグラフ試験が実施されるまで約2日間経過しており,その間に1モルのTEPPが加水分解して2モルのDEPに変化し,DEPの分子の数が増加していると考えられる。そうだとすれば,対照検体よりも事件検体の濃度が低くても,抽出効率がトリエチルピロホスフェートよりも良く,かつ,発色剤に対する反応の強いTEPPが発色し,また,トリエチルピロホスフェートよりも抽出前の分子の数が倍以上あり,発色反応がトリエチルピロホスフェートよりも強いDEPが発色したのに対し,量的に少なく,発色反応が非常に弱いトリエチルピロホスフェートのみ発色しなかったとしても,全く不自然ではない。
(5)これに対し,弁護人は,K及びJ作成の各回答書に基づき,〔1〕本件飲み残しのぶどう酒である事件検体はpH2.5であり,対照用ぶどう酒はpH3であったのであるから,pHを測定することにより,対照検体の濃度を事件検体の濃度と同程度にしたはずであること,〔2〕トリエチルピロホスフェートのOHが発色剤の水との水素結合によって安定化されているので,トリエチルピロホスフェートが加水分解しにくく,発色反応が弱いとの見解は化学的に誤っており,その発色はDEPやTEPPと変わらないことなどを主張している。検察官は,これに対し,更に前記(4)において主張している内容が化学的に誤っているものではない旨その論拠を付して再反論している。
(6)このような状況を踏まえると,原審において,三重県衛生研究所の事件検体のペーパークロマトグラフ試験でRf0.58のスポットが検出されなかったのは,所論のいうように,事件検体にニッカリンTが含まれていなかったためなのか,あるいは,検察官が主張するように,事件検体にニッカリンTが含まれていたとしても,濃度が低かった上,トリエチルピロホスフェートの発色反応が非常に弱いこと等によるものなのかを解明するため,申立人側からニッカリンTの提出を受けるなどして,事件検体と近似の条件でペーパークロマトグラフ試験を実施する等の鑑定を行うなど,更に審理を尽くす必要があるというべきである。

日本には世界最高峰レベルの技術を誇るSPring-8というのがあるんだから、これを使って、あの和歌山カレー事件のときと同じように鑑定すれば一発で毒物とされたものと被告人の保有していた農薬が一致するか確かめればいいのに。
wikipedia:SPring-8