間接事実の自白って証明不要になるのか?の巻

民訴が苦手で、ずっと民訴の勉強してきた。


書証のところ、というか間接事実の自白で、わからんとこがあった。

■文書の成立に関する自白

民事訴訟の証拠調べの対象となる固有の意味での文書は、作成者の思想(意思、認識、感情など)が、裁判官が直接閲読可能な形態で、文字またはこれに準ずる符号によって表現されているものをいう。文書上の思想の表明者を作成者という。
証拠価値は、次の2つの局面に分けて判断される。

  1. 文書に表明された思想が、挙証者により作成者であると主張されている者の思想であることを形式的証拠力といい、
  2. 文書の内容が要証事実の認定に役立つことを実質的証拠力という。

文書は、形式的証拠力が確認されて初めてその内容が要証事実の認定に役立つため、この実質的証拠力の前提として、形式的証拠力が認められることが必要となる。


文書が作成者の意思に基づいて作成されたことを、文書の成立の真正という。これは、形式的証拠力と密接な関係があるが、概念的には区別される。文書の形式的証拠力は成立の真正を前提にし、文書の真正が肯定されれば、通常は形式的証拠力も肯定される(ある者の意思に基づき作成されたのであれば、その者の思想が記載されているのが通常であり、そのように推定すべきである)
民訴228条1項は、文書は、その成立が真正であることが証明されなければ、証拠資料にできないと定めている。


訴訟手続において、一方当事者が証拠として文書を提出すると(書証の申出)、裁判所は、相手方当事者に対して、その文書が真正に成立したものか否かについて認否をさせる。
相手方がその成立を争う、または知らないと述べた場合、挙証者はその真正な成立を証明しなければならない。逆に、争わない、あるいは、認めると述べた場合、真正な成立について両当事者の主張が合致することになる。この場合に、自白の成立を認め、裁判所に対する拘束力をも認めるべきかが問題となる。


自白の拘束力は、主要事実に限定されるという通説・判例を前提とすると、文書の真正な成立は補助事実にあたるから、自白の拘束力は否定されることになる。


自白の拘束力が否定というのに、挙証者から文書が提出されると、裁判所は、相手方にその認否を確認するという。
そこに何の意味があるんだろう?って疑問に思ってた。
だって、結局、自由心証の問題で処理されるんじゃね?って思ったから。
でも、そうすると証明を義務づけている228条と自白法則との関係がわからんくなってくる。


そんなぐちゃぐちゃな気持ちに苛まれていたわけ。
基本的なところでつまずいているんだろうと思いながらも、とりあえず弁論主義が私的自治を根拠とするから自白の拘束力(審判排除効)は主要事実に限定されることを押さえる。
で、それ以外の間接事実、補助事実は、主要事実を推認する事実であり、証拠と性質が変わらないから、これに自白の拘束力を認めると自由心証主義(247条)が制約されるから、自白の成立は認められないということだけ押さえていれば、「文書の真正な成立=補助事実→自白不成立」ということは理解できると思って放置してた。


しかし、裁判上の自白の効果は、法が定める効果と、解釈による効果で分かれるということを看過していた、というか、伊藤民訴、高橋民訴を読んでたら、そこんところあんまり意識できなかった。


藤田広美先生の解析民訴72頁には、こうある。

裁判上の自白が成立した場合、法が定める効果として証明不要効(179条)があるほか、解釈による効果として審判排除効(裁判所に対する拘束力)及び撤回禁止効(相手方当事者に対する拘束力)があります。

確かに、179条で定めていることは
「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。」
ということだけだ。
ここに審判排除効や撤回禁止効が直接には定められていない。


で、78頁には、

間接事実の自白については、証明不要効を認めることに異論はありません。

し、しまったー!!!!
自分の中で問題は「拘束力の肯否」ということは理解しながら、このことは全然無視していた−!!!!


でも、伊藤民訴読むと勘違いしちゃうんじゃないかと思った。
3版再訂版306頁には

3 争いのない事実

 当事者が自白した事実については、証明の必要がない(179)。これが弁論主義の帰結であることはすでに説明した。

とあって、その次に

(1) 裁判上の自白

 …自白の効果として、当該事実は証拠にもとづく裁判所の事実認定の対象とならず、裁判所はこれを判決の基礎としなければならない。また自白当事者も陳述の撤回を制限される。…
 自白の拘束力は、弁論主義を根拠とするものであり、その対象となるのは、事実に限られ、さらに事実の中の主要事実に限定される。

と、こう書かれてて、たぶん一般的だとも思うけれど、これだと裁判上の自白の効果は、①審判排除効と②撤回禁止効の拘束力だけと勘違いしてしまう可能性がある。
が、慎重にみてみると、(1)の項目である裁判上の自白は、3の争いのない事実のうちの1つの項目にあることに気づく。
争いのない事実については、証明不要効が認められるということを前提に、(1)では藤田72頁でいう「解釈による効果」に限定して論じられていることに気づく。
そうすると、伊藤民訴においても、証明不要効が間接事実に妥当することを否定するものではないことが解る。
以上を前提にしても、「一方当事者によって主張された間接事実などについて相手方当事者がそれと一致する陳述を行ったとしても、裁判所は、証拠にもとづいてそれと異なる事実を認定することも許されるし、また自白当事者も、その陳述を撤回することについて特別の制限を受けない。」という伊藤民訴の記述は矛盾しない。証拠に基づいて相手方当事者の陳述と異なる事実を認定すること「も」できるということは、異ならない事実を認定することもできるということだから、証明不要効を前提に考えても矛盾しないとも思える。


いや、しかし、そもそも179条の「自白」に関する話で、その対象となる「事実」が主要事実に限定されると考えると、やっぱり179条によって証明不要効が認められるのは、主要事実に限定される。
そう考えたとしても、間接事実や補助事実は、自由心証の問題で処理すればいいという考えを前提としているとも思える。そう考えると、証明不要効を認めて、間接事実や補助事実について、高度の蓋然性まで認めることができない場合においても証明を不要とすることは、この自由心証との関係で問題があるんじゃないか?
そうすると、わざわざ明文で証明することを定めている文書の真正なんかだと、その認否をすることの積極的意味がわからなくなる。


ワケわかめのトライアングル


ということで、ググってみた。


すげ、一発でこの問題の答えを出してくれた。

■当事者間に争いのない間接事実等

 179条前段は、「当事者の自白」が裁判所を拘束するから自白された事実については証拠調べも必要ないとの論理に基づくものである(審判排除効を基礎に置く証明不要効)。したがって、当事者間に争いのない間接事実や補助事実は、179条前段の対象外となる。
 しかし、これらの事実が常に証拠による証明が必要かと言えば、そうではない。裁判所は、証拠調べをすることなく弁論の全趣旨により(当事者間に争いがないということ自体により)その事実を認定することができ(247条)、そうするのが通常である。
 なお、179条後段の「顕著な事実」は主要事実に限られないが、前段の「当事者が自白した事実」は主要事実に限られる(同じ「事実」という語が指す範囲が異なるというのは落ち着かないが、修飾語が異なるのであるからやむを得ない[18])。
http://civilpro.law.kansai-u.ac.jp/kurita/procedure/lecture/evidence1.html

以上の説明は、伝統的説明で伊藤民訴も同様である。
しかし、藤田民訴を初め最近では、自白の効力を3つに分解して、各効力がどのような種類の事実に認められるべきかを検討する見解も有力である。例えば、[裁判所職員総研*2005a]182頁以下は、次のように整理する。

判例を前提とした自白の効力

主要事実 間接事実 補助事実
証明不要効
審判排除効 × ×
撤回禁止効 × ×

このような考えについて栗田隆教授は以下のように述べている。

 この見解は、証明不要効と審判排除効との関係を断ち切って、当事者間に争いのない事実については、それが主要事実であるか間接事実・補助事実であるかに関わりなしに、証明不要効を肯定する点に特色がある。


 しかし、間接事実の認定が必要となるのは、主要事実が争われている場合であり、間接事実についての自白が裁判所を拘束しないことは、裁判所は証拠調べの結果に基づきそれとは異なる事実を認定することができることを意味する。裁判所が弁論終結前にそのような判断に至った場合には、裁判所はその点を指摘した上で、当該間接事実を主張する当事者に立証を促すのが本来であろう。したがって、当事者間に争いがないというだけでは証明不要とはならず、「当事者間に争いのない間接事実については、それと矛盾する事実が証拠調べの結果等から明らかにならないことを条件にして、当事者はその事実について証拠を提出する必要がない」というべきである。そのような間接事実の自白の証明不要効は、審判排除効を基礎に置く証明不要効とは幾分異なる。

うおー!!!!間接事実や補助事実についての自白に証明不要効が認められることに争いがないとかいって、争いあるぞー!!!!


ほんと民訴はこれだから…