【民法900条】怠慢な国会が機能しそうにないので、最高裁はまたやっちゃいます!の巻【違憲】

立法の怠慢に業煮やしたか

 法的に結婚していない両親から生まれた婚外子(非嫡出子)に対する相続差別を放置し続ける立法府に、最高裁が業を煮やした揚げ句の動きだといっていいだろう。

 「非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1とする」という民法900条の規定が、法の下の平等を定めた憲法に反するかどうか争われている裁判について、最高裁が大法廷で審理することを決めた。

 最高裁判事15人全員が審理に加わる大法廷は、法律が憲法に違反していないか、これまで最高裁が示した判例を変える必要があるかなどを判断するのが役目だ。大法廷は1995年に一度、民法の規定を合憲と判断している。同じ問題を再び取り上げる以上、判例を見直すのではないか。そう考えて当然だ。

 婚外子の相続を差別する規定は、既婚者が配偶者とは別の相手との間に子どもをつくった場合を想定して明治期の旧民法で設けられた。「家」を基本にした家族制度が根を張っていた時代に、法律上の結婚を重んじることを基本にしながら、婚外子にも相続の権利をある程度認め、法的に守ろうという趣旨である。

 しかし、95年の時点で大法廷の15人のうち5人は規定を違憲だと主張した。その後も、事実婚や国際結婚が増えるなど結婚の形は多様化し、社会環境は大きく変化している。

 こうした流れの中、法制審議会は96年に民法を改正するよう答申を出した。国連からも相続差別の撤廃を求める勧告が出ている。自分には何の責任もない理由で法的に不利益を被る子どもがいることへの批判は、国際的にも強まっていた。

 95年以後の裁判で合憲と判断した最高裁判事のなかには、違憲の疑いは濃いけれども違憲判決が出れば過去にさかのぼって相続を見直す必要が生じるなどの混乱を招くとして、「速やかな法改正」を立法府に促す意見もあった。立法で対応すればこうした混乱は起きないからである。

 にもかかわらず、国会は動かなかった。「家族制度が崩れる」「不倫を助長する」などの意見が根強く、法改正は頓挫したままだ。

 大法廷での再審理は、95年の合憲判断にあぐらをかいてきた政治の怠慢を改めて白日の下にさらした。

http://www.nikkei.com/news/editorial/article/g=96958A96889DE3E3E0E4E2E6EAE2E3EAE2E5E0E2E3E28297EAE2E2E2;n=96948D819A938D96E38D8D8D8D8D

やった来たかといった感じ。
うちのローの先生も、昔すげえ量の意見書を提出してたな。おかげで、先生がヘロヘロになって授業が休講になったくらいの量。100枚とか言ってたかな。他の先生が20ページ弱って言ってたから、どんだけ気合い入れてんねんって思ったわ。残念ながらその事件では違憲判決にならなかったみたいだけど……
そもそも、これまでの合憲判決においても補足意見や反対意見も結構あって、「僅差の合憲判決」なんて評されているらしく、これは逆から言えば、「最も違憲に近い合憲」って意味なわけで、今回、大法廷に付されたってことで、こりゃほぼ間違いなく違憲判決(決定か?)が出そうなにおいがプンプンです。

■ 争点

  • 民法900条4 号ただし書前段の憲法14 条1 項適合性
  • 仮に本件規定が違憲無効とされた場合の効果

争点はおおまかにこの2つ。
第1は、浮気で生まれた子供(婚外子)の相続分は、その父親と婚姻関係にある子供の相続分の半分だって規定は、不合理な差別を禁止している憲法14条1項に違反するのかって問題。
子供からすれば、「浮気はオヤジのせいで俺に原因はねーのに、なんで相続分が婚姻をした夫婦間に出生した子の半分なんだよッ!!!!差別的取り扱いだーッ!!!!」と憤慨するだろうことは必至である。


第2は、仮に本件規定が違憲無効とされた場合にどのような効果が生じるかという問題である。従来、婚外子がこの違憲無効とされた規定に従って遺産分割してたりした場合、この遺産分割に対して違憲無効の効力が及ぶのか。及ぶとなると、「これまでの遺産分割等の法律行為はどうなるんだ」って問題が生じる。いわゆる違憲判決の遡及効の問題。
民訴法338条は、「判決の基礎となった法令が違憲無効とされたこと」を再審事由として掲げていないので、本件規定が違憲であるとされても、そのことは直ちに再審事由に当たらない。そして、法的安定性確保の観点からすれば、再審に関する規定を軽々に類推適用すべきではないという価値判断はあり得る。
他方、「判決の基礎となった法令が違憲無効とされたこと」は、同条1項8号に規定する再審事由である「判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと」と比較しても、より重大な瑕疵であるように思われるから、同号を類推適用するという解釈も成り立つ余地がある。
以上の問題は従来あまり議論されてこなかったが、最近、違憲判決の方法とその効力の問題として議論されている。


第1の問題については、前回の決定では、「もうギリギリだからね、これ……」みたいな補足意見が結構ついてた記憶があったけど、どうだったかな。


ということで調べてみたら、最判平成21年9月30日決定の竹内補足意見では、「本件規定は相続が発生した平成12年6月30日の時点(本件基準時)では合憲であったと判断するが、その後の社会情勢の変動や国際的環境の変化等により、その後本件規定が違憲の状態に至った可能性を否定するものではなく、少なくとも現時点においては本件規定は違憲の疑いが極めて強い」という内容だった。要するに、当時は合憲だけど、今はかなりやべーよ、違憲くせーよ、ってことだ。
で、結局この決定では、違憲とする反対意見が1人、他の4人が合憲という立場だったため、違憲には至らなかった。
ちなみに違憲という立場に立った今井裁判官の反対意見は、「本件規定の立法目的には合理性があるとしても、婚姻関係から出生するかそうでないかは、子が、自らの意思や努力によってはいかんともすることができない事柄であり、このような事柄を理由として相続分を差別することは個人の尊厳と相容れず、立法目的と相続分の差別との間に合理的な関連性は認められない」という内容だった。


最高裁判所違憲判決を出すには、原則として、15名で構成される大法廷において最低9人が出席し、最低8人が違憲判決を支持することが必要とされる。
wikipedia:違憲判決
今回、この違憲判断を下すことができる大法廷に事件が付されたということは、「国会が怠慢だから、もうやっちゃうもんね。た、たぶん……」ということを意味する。
たぶんと言いつつ、ここ最近で大法廷に付された事件については、選挙関連の事件以外はだいたい判例変更していたはずなので、今回も従来の平成7年に大法廷で出した合憲の立場を変更する可能性が非常に高いと思う。判決が出るのは半年後くらいかな?


というか、昔と比べてかなり積極的になったよな最高裁は。数十年に1回の違憲判決が、近年では3年に1回くらい出てるし。

最判平成7年7月9日大法廷決定

 所論は、要するに、嫡出でない子(以下「非嫡出子」という。)の相続分を嫡出である子(以下「嫡出子」という。)の相続分の2分の1と定めた民法900条4号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反するというのである。
1 憲法14条1項は法の下の平等を定めているが、右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものではない(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等参照)。
 そこで、まず、右の点を検討する前提として、我が国の相続制度を概観する。
1 婚姻、相続等を規律する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を定めた憲法24条2項の規定に基づき、昭和22年の民法の一部を改正する法律(同年法律第222号)により、家督相続の制度が廃止され、いわゆる共同相続の制度が導入された。
 現行民法は、相続人の範囲に関しては、被相続人の配偶者は常に相続人となり(890条)、また、被相続人の子は相続人となるものと定め(887条)、配偶者と子が相続人となることを原則的なものとした上、相続人となるべき子及びその代襲者がない場合には、被相続人直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ第一順位、第二順位の相続人となる旨を定める(889条)。そして、同順位の相続人が数人あるときの相続分を定めるが(900条。以下、右相続分を「法定相続分」という。)、被相続人は、右規定にかかわらず、遺言で共同相続人の相続分を定めることができるものとし(902条)、また、共同相続人中に、被相続人から遺贈等を受けた者(特別受益者)があるときは、これらの相続分から右受益に係る価額を控除した残額をもって相続分とするものとしている(903条)。
 右のとおり、被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を定めることができるが、また、遺言により、特定の相続人又は第三者に対し、その財産の全部又は一部を処分することができる(964条)。ただし、遺留分に関する規定(1028条、1044条)に違反することができず(964条ただし書)、遺留分権利者は、右規定に違反する遺贈等の減殺を請求することができる(1031条)。
 相続人には、相続の効果を受けるかどうかにつき選択の自由が認められる。すなわち、相続人は、相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない(915条)。
 906条は、共同相続における遺産分割の基準を定め、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする旨規定する。共同相続人は、その協議で、遺産の分割をすることができるが(907条1項)、協議が調わないときは、その分割を家庭裁判所に請求することができる(同条2項)。なお、被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、又は相続開始の時から5年を超えない期間内分割を禁止することができる(908条)。
2 昭和55年の民法及び家事審判法の一部を改正する法律(同年法律第51号)により、配偶者の相続分が現行民法900条1号ないし3号のとおりに改められた。すなわち、配偶者の相続分は、配偶者と子が共同して相続する場合は2分の1に(改正前は3分の1、配偶者と直系尊属が共同して相続する場合は3分の2に(改正前は2分の1、配偶者と兄弟姉妹が共同して相続する場合は4分の3に(改正前は3分の2)改められた。 
 また、右改正法により、寄与分の制度が新設された。すなわち、新設された904条の2第1項は、共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分ないし指定相続分によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする旨規定し、同条2項は、前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める旨規定する。この制度により、被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者には、法定相続分又は指定相続分以上の財産を取得させることが可能となり、いわば相続の実質的な公平が図られることとなった。
3 右のように、民法は、社会情勢の変化等に応じて改正され、また、被相続人の財産の承継につき多角的に定めを置いているのであって、本件規定を含む民法900条の法定相続分の定めはその一つにすぎず、法定相続分のとおりに相続が行われなければならない旨を定めたものではない。すなわち、被相続人は、法定相続分の定めにかかわらず、遺言で共同相続人の相続分を定めることができる。また、相続を希望しない相続人は、その放棄をすることができる。さらに、共同相続人の間で遺産分割の協議がされる場合、相続は、必ずしも法定相続分のとおりに行われる必要はない。共同相続人は、それぞれの相続人の事情を考慮した上、その協議により、特定の相続人に対して法定相続分以上の相続財産を取得させることも可能である。もっとも、遺産分割の協議が調わず、家庭裁判所がその審判をする場合には、法定相続分に従って遺産の分割をしなければならない。
 このように、法定相続分の定めは、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて、補充的に機能する規定である。
2 相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであるが、その形態には歴史的、社会的にみて種々のものがあり、また、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならず、各国の相続制度は、多かれ少なかれ、これらの事情、要素を反映している。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断にゆだねられているものというほかない。
 そして、前記のとおり、本件規定を含む法定相続分の定めは、右相続分に従って相続が行われるべきことを定めたものではなく、遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮すれば、本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は、その立法理由に合理的な根拠があり、かつ、その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく、いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り、合理的理由のない差別とはいえず、これを憲法14条1項に反するものということはできないというべきである。
3 憲法24条1項は、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する旨を定めるところ、民法739条1項は、「婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて、その効力を生ずる。」と規定し、いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用し、また、同法732条は、重婚を禁止し、いわゆる一夫一婦制を採用することを明らかにしているが、民法が採用するこれらの制度は憲法の右規定に反するものでないことはいうまでもない。
 そして、このように民法法律婚主義を採用した結果として、婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じ、親子関係の成立などにつき異なった規律がされ、また、内縁の配偶者には他方の配偶者の相続が認められないなどの差異が生じても、それはやむを得ないところといわなければならない。
 本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることにより、非嫡出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。これを言い換えれば、民法法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。
 現行民法法律婚主義を採用しているのであるから、右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことが、右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず、憲法14条1項に反するものとはいえない。論旨は採用することができない。

最判平成21年9月30日第二小法廷決定の補足意見と反対意見

竹内行夫の補足意見

1(1)法定相続分を決定するに当たっては、相続発生時において有効に存在した法令が適用されるのであるから、本件における民法900条4号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)の憲法適合性の判断基準時は、相続が発生した平成12年6月30日(以下「本件基準日」という。)ということになる。したがって、多数意見は、飽くまでも本件基準日において本件規定が憲法14条1項に違反しないとするものであって、本件基準日以降の社会情勢の変動等によりその後本件規定が違憲の状態に至った可能性を否定するものではないと解される。
(2)本件基準日以降も、本件規定の憲法適合性について判断をするための考慮要素となるべき社会情勢、家族生活や親子関係の実態、我が国を取り巻く国際的環境等は、変化を続けている。
 民法施行後の社会経済構造の変化に伴い、農業を営む家族に典型的にみられるような、家族の構成員の協働によって形成された財産につき被相続人の死亡を契機として家族の構成員たる相続人に対してその潜在的な持分を分配するといった形態の相続が減少し、相続の社会的な意味が、被相続人が個人で形成した財産の分配といった色彩の強いものになってきているといえることに加え、本件基準日以降に限っても、例えば、人口動態統計によれば、非嫡出子の出生割合は平成12年には出生総数の1.63%であったのが、平成18年には2.11%に増加していることは、我が国における家族観の変化をうかがわせるものといえるし、平成13年にフランスにおいて姦生子(婚姻中の者がもうけた非嫡出子)の相続分を嫡出子の2分の1とする旨の規定が廃止され、嫡出子と非嫡出子の相続分を平等とすることは世界的なすう勢となっており、我が国に対し、国際連合自由権規約委員会や児童の権利委員会から嫡出子と非嫡出子の相続分を平等化するように勧告がされていることなどは、我が国を取り巻く国際的環境の変化を示すものといえよう。
(3)そして、非嫡出子に相続権を認めることがさほど一般的ではなかった時代においては、非嫡出子にも一定の法定相続分を認める本件規定は、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図るものとして、その正当性を肯定できたものの、以上のような社会情勢等の変化を考慮すれば、本件規定が嫡出子と非嫡出子の相続分に差をもうけていることを正当化する根拠は失われつつある一方で、本件規定は非嫡出子が嫡出子より劣位の存在であるという印象を与え、非嫡出子が社会から差別的な目で見られることの重要な原因となっているという問題点が強く指摘されるに至っているのである。そうすると、少なくとも現時点においては、本件規定は、違憲の疑いが極めて強いものであるといわざるを得ない。
2(1)ところで、本件規定は、相続制度の一部分を構成するものとして、国民の生活に不断に機能しているものであるから、これを違憲としてその適用を排除するには、その効果や関連規定との整合性の問題等について十分な検討が必要である(前記大法廷決定における大西勝也、園部逸夫、千種秀夫、河合伸一各裁判官の補足意見、最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号251頁における藤井正雄裁判官の補足意見及び最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁における島田仁郎裁判官の補足意見参照)。
 しかるに、最高裁判所が、過去にさかのぼった特定の日を基準として、本件規定は違憲無効となったと判断した場合には、当該基準日以降に発生した相続であって相続人中に嫡出子と非嫡出子が含まれる事案において、本件規定を適用した判決(最高裁判所の判決も含む。)や遺産分割審判、本件規定が有効に存在することを前提として成立した遺産分割調停、遺産分割協議等の効力に疑義が生じ、新たな紛争が生起し、更には本件規定を前提として形成された権利義務関係が覆滅されることにもなりかねない。かかる事態は、本件規定に従って行動した者に対して予期せぬ不利益を与えるおそれがあり、法的安定性を害することが著しいものといわざるを得ない。特に、本件においては本件基準日から既に9年以上が経過しているという事情があるので、本件規定が違憲無効であったと判断した場合にその効力に疑義が生じる判決等は、相当な数に上ると考えられるのである。
 前記大法廷決定における5名の裁判官の反対意見は、本件規定の有効性を前提としてなされた従前の裁判、合意の効力を維持すべきであると述べるが、違憲判断の効力を遡及させず、従前の裁判等の効力を維持することの法的な根拠については、上記反対意見は明らかにしておらず、学説においても十分な議論が尽くされているとはいい難い状況にある。また、上記反対意見に従えば、同じ時期に相続が発生したにもかかわらず、本件規定が適用される事案とそうでない事案が生ずることになるという問題も生じかねない。
(2)これに対し、立法府が本件規定を改正するのであれば、相続をめぐる関連規定の整備を図った上、明確な適用基準時を定め、適切な経過規定を設けることで、容易にこれらの問題や不都合を回避することができる。そして、平成8年には法制審議会により非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等にする旨の民法改正案が答申されているのである。これらのことを考慮すると、私は、前記1(2)のような社会情勢等の変化にかんがみ、立法府が本件規定を改正することが強く望まれていると考えるものである。
(3)なお、私が以上に述べたところは、立法による解決が望ましいという考えであって、立法による解決が望ましいことを理由に最高裁判所違憲の判断をすることを差し控えるべきであるという趣旨でないことはいうまでもない。 

裁判官今井功の反対意見

 わたくしは、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする本件規定は、憲法14条1項に違反すると考えるので、これを合憲とした原決定を破棄し、本件を原審に差し戻すべきものと考える。その理由は次のとおりである。
1 多数意見の引用する前記大法廷決定は、本件規定は合理的理由のない差別といえず、憲法14条1項に違反しないとしている。その理由として、同決定は、本件規定の立法理由は、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解されるとした上で、このような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであるから、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことが、立法理由との関連において著しく不合理であり、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないとしている。
2 憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。」と規定し、憲法24条2項は、「相続、(中略)及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定している。
 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきである。
 本件規定は、相続分につき嫡出子と非嫡出子との間に差別を設けている。この差別は、被相続人の子が嫡出子であるか非嫡出子であるか、換言すれば、婚姻関係から出生した子であるかそうでないかということを理由として、相続分に差を設けたものである。その立法目的は、前記大法廷決定の述べるように、法律婚の尊重ということにある。しかし、法律婚の尊重という立法目的が合理的であるとしても、その立法目的からみて、相続分において嫡出子と非嫡出子との間に差を設けることに合理性があるであろうか。憲法24条2項は、相続において個人の尊厳を立法上の原則とすることを規定しているのであるが、子の出生について責任を有するのは被相続人であって、非嫡出子には何の責任もない。婚姻関係から出生するかそうでないかは、子が、自らの意思や努力によってはいかんともすることができない事柄である。このような事柄を理由として相続分において差別することは、個人の尊厳と相容れない。法律婚の尊重という立法目的と相続分の差別との間には、合理的な関連性は認められないといわざるを得ない。
 最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁は、日本国籍の取得について定めた国籍法の規定について、同じく日本国民である父から認知された子であるにもかかわらず、準正子は国籍が取得できるのに、非準正子は国籍が取得できないとした当時の国籍法3条1項の規定を、合理的な理由のない差別であって憲法14条1項に違反すると判断したのであるが、このことは、本件のような相続分の差別についても妥当するといわなければならない。
3 非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする規定は、明治の旧民法当時に設けられたものであり、太平洋戦争後の民法の改正においても維持されて現在に至っている。その当時においては、合理的なものとして是認される余地もあったことは認めざるを得ないが、その後の社会の意識の変化、諸外国の立法の動向、国内における立法の動き等にかんがみ、当初合理的であったとされた区別が、その後合理性を欠くとされるに至る事例があることは、国籍法についての前記大法廷判決からも明らかである。
 まず、我が国における社会的、経済的環境の変化等に伴って、夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており、今日では、出生数のうち非嫡出子の占める割合が増加するなど、家族生活や親子関係の実態も変化し、多様化してきていることを指摘しなければならない。また、ヨーロッパを始め多くの国においても、非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等とする旨の立法がされている。我が国においても、後に述べるように、非嫡出子の相続分を嫡出子のそれと同等とする旨の民法の改正意見があり、平成8年には、法制審議会総会が、その旨の改正案要綱を決定し、法務大臣に答申したが、未だ改正が実現していないという状況にある。
4 本件規定は親族相続制度の一部分を構成するものであるから、これを変更するに当たっては、これらの制度の全般にわたっての目配りや関連する諸規定への波及と整合性の検討が必要であり、また、本件規定による相続関係の処理は、永年にわたって行われてきたものであるから、本件規定を変更する場合には、その効力発生時期等についても慎重な検討が必要であり、これらのことは、本来国会における立法によって行われるのが望ましいものというべきである。このことは、上記大法廷決定における千種秀夫、河合伸一裁判官の補足意見で述べられ、その後の本件規定を合憲と判断した最高裁判所の小法廷判決における補足意見においても指摘されているとおりであり(前記平成12年1月27日第一小法廷判決における藤井正雄裁判官の補足意見、前記平成15年3月31日第一小法廷判決における島田仁郎裁判官の補足意見参照)、わたくしもこれらの意見に共感を覚えるものである。
 このように本来立法が望ましいとしても、裁判所が違憲と判断した規定について、その規定によって権利を侵害され、その救済を求めている者に対し救済を与えるのは裁判所の責務であって、国会における立法が望ましいことを理由として違憲判断をしないことは相当でない。
 なお、本件規定を違憲無効と判断したとしても、そのことによって本件規定を適用した確定判決や確定審判について再審事由があるということにはならないし、本件規定が有効に存在することを前提として成立した遺産分割の調停や遺産分割の協議の効力が直ちに失われるものではない。遺産分割の調停や協議は、当事者の思惑や譲歩など様々な事情を踏まえて成立するものであるから、本件規定が無効であることによって当然に錯誤があるということにはならない。本件規定を違憲と判断することによって、法的安定性を害するおそれのあることは否定できないが、その程度は補足意見が述べるほど著しいものとはいえないと考える。
5 非嫡出子の相続分が嫡出子のそれと差があることの問題性は、古くから取上げられ、昭和54年には、法制審議会民法部会身分法小委員会の審議を踏まえて、「非嫡出子の相続分は嫡出子のそれと同等とする」旨の改正要綱試案が公表されたが、改正が見送られた。さらに平成6年に同趣旨の改正要綱試案が公表され、平成8年2月の法制審議会総会において同趣旨の法律案要綱が決定され、法務大臣に答申されたが、法案の国会提出は見送られて、現在に至っている。前記大法廷決定の当時は、改正要綱試案に基づく審議が法制審議会において行われており、改正が行われることが見込まれていた時期であった。ところが、法制審議会による上記答申以来十数年が経過したが、法律の改正は行われないまま現在に至っているのであり、もはや立法を待つことは許されない時期に至っているというべきである。
6 以上のような理由から、わたくしは、本件規定は憲法14条1項に違反すると考えるので、これと異なる原決定を破棄して本件を原審に差し戻すべきであると考えるものである。


ちなみに子供の「供」を蔑称と見るのは完全に誤りであり、これこそいわれなき差別である。