新司法試験2010民事系大大問の設問1の検討。の巻

まだお腹の具合がよろしくないです。


TKCから今年の法学セミナーの新司法試験解説本が送られてきたので、今日は、辰已でやった答案を見ながら復習してました。

民事系大大問の設問1

事実①が代理権授与行為の間接事実として機能する。自分の答案も解説でもこうなってる。
事実②の法律上の意義として、本人AからCに対して代理権授与の意思表示があったことを推認する意味を持っていない。これもOK
ただ、110条の表見代理の問題において、その要件たる正当理由ないし無過失の判断の一要素となり得ると解説には書いてあった。もっとも、Fが確認の電話をかけたという典においては有過失の判断には作用しないというだけで、逆に電話がつながらなかったということ自体は積極的に無過失という判断を根拠づけることにもならないと解説されている。

自分(の答案)的には、②の事実、すなわち本人Aに電話で確認しようとしたけど、つながらなかったという事実は、むしろ正当理由の評価障害事実だと思ったんだが。
その理由は、経験則上、本人Aに電話で確認しようとした事実からすると、Fは本人Aにより融資額の変更されたということについて半信半疑だったからこのような行動に出たと解するのが合理的だと考えられる。少なくとも、Fは融資額の変更があったと信じきっていたとまでいえないだろう。
そうすると、電話がつながらなかったというのだから、このFの半信半疑という心理状態は何も変化がなく、それにもかかわらずそのような常況のまま契約を締結しているわけだから、むしろこの事実は正当理由の評価障害事実になるんじゃないのだろうか。


このことは、事実②が本人Aに電話で確認して、Aが融資額の変更もCに委ねたということが確認された正当理由が認められる典型例と比較するとより明白だと思う。
委任事項の範囲が融資額の変更であり、しかもそれが従来予定されていたものよりも増額するもので、それは重要な事項といえる。しかも、本人Aはそのよな重要な事実を相手方Fに伝えていなかったのであり、このような相手方Fの立場に照らすと、代理人と称するCの言葉のみから融資額の変更を信じることがもっともだとはいえない。特に、Fが金融事業者であることも考えると、本人に確認・照会する義務があるといえる。
そこで、この本人確認をして、その事実が確認されることによって、初めて正当理由が根拠付けられるといえる。
以上は、以下の説明からもいえる。

潮見佳男「民法総則講義」388頁

 どのような場合に「正当の理由」があるか(相手方が善意無過失と言えるか)については、一般的・抽象的に言えば、「相手方の立場におかれたときに、合理的に行動する者ならば、代理人にその行為について代理権があると信じたであろうし、そのように信じるのももっともである」かどうかにより判断されるということになる。個別の事件ごとに判断していくほかない……。
 ……最近では、相手方が契約締結に際して本人への確認・照会をしたかどうかが重視される傾向にある。特に、相手方が事業者や専門家である場合には、当該事業・専門職に属する取引につき本人に確認・照会せずに無権代理人と取引をしたときには、「正当の理由」なし(相手方日本人への確認・照会義務を怠った過失あり)として110条の適用が否定される場合が多い(最判昭45・12・15民集24-13-2081、最判昭51・6・25民集30-6-665)。

以上を前提とすると、金融業を営む相手方Fに、本人Aに対する確認・照会の義務があったことは明白といえ、問題は、本問において、相手方Fが行った事実②で、その確認・照会義務を履行したといえるかどうかということになる。


上述の通り、本人Aは電話に出なかったわけで、これで電話をかけたという行為のみで確認義務が果たされたといえないことは明らかだろう。
確認義務を果たしたという意味は、その確認によって代理権授与の事実(本問では融資額の変更の事実)があったと信じることが正当といえること基礎付けるということを意味する。すなわち、確認したことで正当に信じたといえる理由は、実際に本人に確認による事実と一致したからこそだ。
したがって、本人Aが電話にでなかった以上、融資額の変更という事実の存否は確認されないままなわけで、相手方Fの半信半疑の状態は何ら脱していない。つまり、確認できないことにより半信半疑の状態が変わらない以上、確認という行為による信頼すべき事実は何もない。これをもって、融資額の変更の事実があったことを信じたことが正当であったとはいえないことは明らかだろう。
むしろ、半信半疑のまま契約を締結したという事実自体、確認義務を怠ったという評価につながる。つまり、自ら確認義務を怠ったという事実を認める陳述ということになるんじゃないか(自己に不利益な事実の陳述)。


と、そういうことで、事実②は、正当理由の評価根拠事実の判断材料どころか、むしろ正当理由の評価障害事実の判断材料になると思われる。
だから、法セミの解説では舌足らずのような気がする。


もっとも、事実②が正当理由の評価障害事実になるとすると、さらなる問題が出てくる。なぜなら、正当理由の評価障害事実の立証責任はFではなく、表見代理の成立を否定するAにあると考えられるからである(規範的評価が評価根拠事実と評価障害事実の総合判断であることにつき要件事実30講(第2版)89頁以下参照)。
規範的要件である正当理由は、表見代理の成立を主張する者がその評価根拠事実について立証責任を負う。そして、その確定された評価根拠によれば正当理由の成立を肯定できる場合に、この評価の成立を前提として、評価障害事実の存否について判断し、これらの確定された事実に基づいて正当理由の成否を判断する。


事実②が正当理由の評価障害事実だとすると、本来Aが主張立証すべき責任がある事実を、相手方Fが先にそれを認める主張をしたことになる。
そうすると、Fによる事実②の主張は、いわゆる不利益陳述の問題になるのか?


仮に、そうだとすると設問1は結構掘り下げることができる問題になってしまう。


まぁ、いずれにしても、単に電話をかけたという事実から確認義務を果たしたとみて、正当理由の評価根拠事実と解する答案は、かなりヤバいっぽい。考査委員もこういう何も考えていない、理解不十分な答案を見極めるつもりで設問を作ったのかもしれない。