民法復習メモ

また、マークミス発見(2点分)…本当に俺って…

共有の判例

最判平成10年3月24日民集187号485頁

【判決要旨】
 共有者の1人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合には、他の共有者は、特段の事情がない限り、変更により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることができる。
【参照条文】
民法249条・251条
第1 事実
 被相続人(平成2年10月27日死亡)の法定相続人は、妻と4人の子であったが、被相続人は、その所有財産を妻と三男Xに持分2分の1ずつ取得させる旨の自筆証書遺言を作成していたところ、相続開始後長男Yが遺産の1部である本件土地(農地)につき無断で宅地造成工事を行ってこれを非農地化した。
 そのため、XがYに対し、本件土地に投入された土砂を撤去する方法により原状回復する工事をすることを求め、YがXに対し、遺言の無効確認等を求めている(なお、相続人間での遺産分割協議は未了である。)。
 1、2審とも、遺言が無効であるとして、Yの請求を認容するとともに、その結果Yが本件土地につき法定相続分割合(8分の2に応じた共有持分権に基づく使用権原を有することを理由に、Xの請求を棄却した。
第2 論点
 共有者の1人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合における他の共有者による共有持分権に基づく妨害排除としての原状回復請求の可否。
1 共有者は、共有物の全部について、その本来的用法に従って、各自の共有持分に応じた使用収益ないし利用をすることができる(なお、共有物の使用収益ないし利用方法に関して共有者間の協議が成立している場合には、これに従って使用収益ないし利用が行われることになる。)。共有持分権は所有権の実質を有するものであるから、各共有者は、自己の共有持分が侵害されている場合には、共有持分権に基づき、右侵害を行っている第三者あるいは他の共有者に対し、単独で妨害排除請求権を行使し、侵害行為の態様等に応じて侵害行為の停止や侵害状態の除去等を求めることができるほか、損害賠償請求をすることもできる。
 もっとも、共有者の1人が共有物の占有を独占して他の共有者による使用収益を妨害している場合には、その者にも共有持分権に基づく使用権原があるため、これを全面的に排除するような形での請求は認められず、結局他の共有者は、自己の持分の価格の限度において共有物を使用収益することを妨害してはならない旨の不作為請求をなしうるにとどまるものとされている (大判大11・2・20民集1巻56頁)。
2 共有者による共有物の利用ないし使用収益は、共有物の本来的用法ないし共有者の協議で定められた用法に従ったものであることを要するところ、共有物に変更を加える行為は、共有物の使用収益の範疇を逸脱し、共有物の性状を物理的に変更することにより、割合的にではあっても共有物の全部に及んでいる他の共有者の共有持分権に対する侵害行為を構成するものであって、他の共有者の同意を得ない限りこれをすることが許されないものである。
 したがって、1部の共有者が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加える行為をしている場合には、他の共有者は、各共有持分権に基づく妨害排除として、単独でその侵害行為の全部の禁止、侵害状態の除去等を請求することができるほか、それにより生じた損害の賠償を請求することもできる。
 大審院大正8年9月27日判決・民録25輯1664頁は、共有者の1人が共有山林の立木を無断で伐採した事例につき、他の共有者からの共有持分権に基づく伐採禁止請求を認めている。もっとも、侵害行為者である共有者にも共有持分権に基づく利用権原があるから、これを全面的に排除するような形での請求は、当然には認められないことになる。
2 そして、共同相続人が遺産分割前の遺産を共同所有する法律関係について、判例は、基本的には民法249条以下に規定する共有としての性質を有するものと解しており(最三小判昭30・5・31民集9巻6号793頁、判タ50号23頁、最二小判昭50・11・7民集29巻10号1525頁、)、前述したところは、遺産分割前の相続共有の場合にも、同様に妥当することになる。
第3 本判決
 本判決は、以上のような理由から、共有者の1人が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加えた場合には、他の共有者は、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場合を除き、変更により生じた結果を除去して共有物を原状に復させることを求めることができる旨判示したものである。
 また、共有物に変更を加える行為の具体的態様及びその程度と妨害排除によって相手方の受ける社会的経済的損失の重大性との対比に照らし、あるいは、共有関係の発生原因、共有物の従前の利用状況と変更後の状況、共有物の変更に同意している共有者の数及び持分の割合、共有物の将来における分割・帰属・利用の可能性その他諸般の事情に照らして、他の共有者が妨害排除請求をすることが権利濫用に当たるなど、その請求が許されない場合もあることを明言した。
 その上で、本判決は、本件においては、共同相続人の1人であるYが本件土地に宅地造成工事を施して非農地化した行為は、共有物の変更に当たるところ、Yがこれを行うにつき他の共有者の同意を得たことの主張立証がないから、Xは、Yに対し、右工事の終了後であっても、本件土地に搬入された土砂の範囲の特定及びその撤去が可能であるときには、Ⅹの請求が権利濫用により許されないなどの事情がない限り、原則として、本件土地に搬入された土砂の撤去を求めることができるとして、原判決中Xの請求に関する部分を破棄して、原審に差し戻した(なお、Xの請求の趣旨は、Yに対し、本件土地上の一定範囲の土砂を撤去する方法により、本件土地につき農地へ原状回復する工事をすることを求めるというものであるが、その後段部分については問題がある)。
 なお、本判決は、共有物の変更の場合について判示したものであって、共有者の1部が共有物の本来的用法ないし協議により定められた用法に違反する利用行為をしている場合については、その射程外ということになる。この場合についても、基本的には同様に考えることができるのではないかと思われる。

質権

質権の設定

 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる(344条)。345条によって、質権設定者による代理占有の禁止が定められている。
 質権において、占有は本質的要素であり(342条)、同時に、事実上の公示機能をも果たしている。そこで、344条および345条は、質権設定には設定者から質権者への占有移転が伴うことを規定する。民法上、物権変動は当事者の意思のみにより生じることが原則である(176条)が、344条は質権の成立要件として引渡しを求めている(要物契約)点に特徴がある。
 344条で質権設定の効力要件とされる引渡しには、現実の引渡し(182条1項)のほか、簡易の引渡し(182条2項)、指図による占有移転(184条)も含まれる。
 しかし、占有改定(183条)は、344条の引渡しにはあたらない(345条)。あくまでも、設定者から占有をとりあげる必要がある。これに対し、設定者から質権者に質物の占有を移転した後、質権者が任意にこれを返還した場合は、一旦成立した質権は質物返還により消滅しない、というのが判例の立場。ただし、質物を返還すると、動産質においては、第三者への対抗力が失われる(352条)。
 363条では、譲渡に証書の交付を要する債権に限って、証書の交付を求める。

不動産質権者による利息の請求の禁止

 不動産質権者は、被担保債権について発生する利息を請求することができない(357条)。不動産質においては、質権者が不動産の使用収益を許されているため、使用により得られる利益が被担保債権の利息と管理費用(357条)に相当する、との理解による。しかし、特約により、357条と異なる定めをすることができる(359条)。

抵当権

抵当権の順位

 同一の不動産に複数の抵当権が設定される場合、各抵当権の優劣は、物権法の原則どおり、登記の先後により決まる(373条)。各抵当権者は、合意で順位の変更ができる(374条1項本文)。この場合の順位の変更は、登記が効力要件(374条2項、不登89条1項)。

ケース

 同一不動産に3つの抵当権が設定され、それぞれ、第1順位の抵当権者が甲(被担保債権額400万円)、第2順位が乙(被担保債権額400万円)、第3順位が丙(被担保債権額800万円)の場合で、抵当権が実行され、物件が1000万円で売却されたとする。
 甲と丙との順位の変更があるケースでは、第1順位が丙、第2順位が乙、第3順位が甲となる。この場合、順位に変動のない乙の配当にも、変更の影響が及ぶ可能性がある。上のケースでは、順位の変更により、第1順位の丙に800万円の配当がなされる結果、第2順位の乙の配当額は残額の200万円となる。これは甲が第1順位である場合、乙は甲の配当後の残額600万円にかかっていけるので被担保債権額の400万円すべて配当されることと比較すると減額している。そのため、甲、乙、丙の全員の合意が必要とされる。
 ただし、甲乙のみで順位を入れ替える場合には、丙には何ら影響は生じないので、丙の合意は必要ではない。
 また、「利害関係を有する者」がいる場合、この者の承諾が必要とされる(374条1項但書)。「利害関係を有する者」とは、順位の変更による不利益を被る抵当権(甲、乙の抵当権)に対する転抵当権を有する者や、被担保債権の差押債権者・質権者がこれにあたる。
 なお、順位の変更は債務者や設定者の負担の大きさに影響を与えないので、これらの者は「利害関係を有する者」にあたらない。よって、順位の変更に債務者や設定者の承諾は不要。

危険負担

基本

原則:債務者主義(536条1項)
例外:債権者主義(534条)
 →534条の要件は、①特定物(特定後の種類物含む)、②物権の設定・移転、③双務契約、④債務者無責、④目的物の滅失・損傷

535条の意味=債権者主義を規定する534条の例外

 534条が債権者主義を採用する根拠は、債権者に目的物の支配があることによる。
 双務契約が停止条件付きの場合、条件の成就が未定である間は、危険を債権者へ移転させるだけの確定的な関係(支配関係)がまだ存在していないため、条件成就までに滅失したら債務者主義としている。もっとも、損傷にとどまる場合には、債権者主義を維持しており、停止条件付双務契約における特定物が滅失か損傷かで区別している。
 通説はこのように、原始的不能と後発的不能との分かれ目となる基準時は契約成立時であり、1項、2項とも本来的に危険負担の問題であると考える。
 まとめると、特定物を目的とする双務契約が停止条件付である場合に、条件の成就が未定の間に、

  1. 特定物が滅失した場合は、原則に立ち帰り債務者主義(1項)
  2. 特定物が損傷したにとどまる場合は、債権者主義(2項)

ということになる。
3項は債務不履行の特則。目的物の損傷が債務者の帰責事由によるときは、条件が成就した場合に、債権者は契約の履行請求と解除権行使の選択ができ、同時に損害賠償請求もできる(3項)。


 なお、解除条件付双務契約の定めはないが、条件成就未定の間に、債務者無責で目的物が滅失・損傷した場合、通常通り、その目的物が特定物(→534条)か不特定物(→536条)かで処理する。
 後に解除条件が成就したことによって契約の効力が失効する場合、解除条件に関する一般理論で処理。
→債権者の既履行済みの給付については、不当利得の法理により債権者は返還請求でき、損傷物を受領しているときは、返還義務を債権者は負う。これは危険負担の問題ではない。