無断で作成した婚姻届を提出したら何罪?の巻

B型H系というアニメを見た。
内容は、一言で言うと、


  ヤ○マン目指す女子高生(処女)の話



ということで、こどもの教育上、よろしくない内容の予感満開です。



で、話の中で、ある女子生徒が男性に無断で、勝手に婚姻届に署名・印鑑を押して提出したという行為によって、公正証書原本不実記載容疑で裁判所から呼び出されるというくだりがあった。



え?婚姻届?公正証書じゃねーよな?
公用文書だけど、公文書じゃないから、公文書偽造罪も不成立じゃね?


つーことで、有印私文書偽造罪じゃないか?



んんんん。


自信ねーや。



つーことで、ちょっと復習。

総論

文書偽造の罪(154条以下)としては、詔書偽造等罪(154条)、公文書偽造等罪(155条)、虚偽公文書作成等罪(156条)、公正証書原本不実記載等罪(157条)、偽造公文書行使等罪(158条)、私文書偽造等罪(159条)、虚偽診断書等作成罪(160条)、偽造私文書等行使罪(161条)、電磁的記録不正作出・同供用罪(161条の2)が規定されている。

■ 保護法益(西田各論345頁)

文書偽造の罪の保護法益は文書に対する公共の信用といわれる。その具体的な内容は、次の通りである。
文書は我々の日常的な社会生活において、権利・義務の関係や一定の事実を証明する手段として重要な役割を果たしている。例えば、各種の契約書、出生証明書、卒業証明書、納税証明書、印鑑証明書など各種の証明書、請求書、領収書などがその例である。これらの文書は、名義人の意思表示の内容が固定化されていることによって高い証明力をもち、その結果、証拠価値を有するのである。我々は、これらの文書を真実なものとして信用し、これを基礎として新たな権利・義務関係、身分関係を形成してゆく。その際、文書の内容が真実であるか否かをいちいち調査する必要があるとすれば、社会生活は停滞してしまうであろう。そこでは、文書の作成名義人が当該文書を作成したという事実、すなわち文書の成立における真正性が担保されていれば、その文書の内容も真実であると信用されて社会に流通しているのである(ただし、通貨は広く流通することが予定されているため、通貨偽造罪においては通貨に対する公衆の信用が保護法益となるが、文書においては、それが一般に流通するような事態は通常想定されないため文書に利害関係を有する者の信用の保護が問題となるにすぎないことに留意する必要がある)。
もちろん、文書の中には内容虚偽のものも存在するであろう。しかし、その場合でも、最低限、文書の作成主体すなわち名義人に偽りがなければ、名義人に対して法的責任を追及することが可能である。したがって、文書の作成名義を偽ること、すなわち、文書作成の責任の所在をわからなくすることは、とくに刑法によって禁圧される必要があるのである。その意味で、文書偽造の罪の保護法益は、文書のもつ証拠としての機能であり、その機能は内容虚偽の文書によっても害されるが、より本質的には、文書の責任明示機能を害することによって侵害されるのである。

■ 文書の意義

文書偽造罪における文書とは、文字又はこれに代わるべき可視的符号により、一定期間永続すべき状態において、ある物体の上に記載した、人の意思・観念の表示をいう。

■ 偽造の意義(山口各論434頁)

文書偽造罪(154条以下)の構成要件的行為(実行行為)としては、大きく分けて、①偽造(及び変造)と②虚偽文書作成(及び変造)とが規定されている。
①偽造とは、権限なく他人名義の文書を作成することをいう(作成名義の冒用)。有形偽造とも呼ばれている。そして偽造により作出された文書は、偽造文書又は不真正文書という。
これに対し、②虚偽文書作成とは、文書の作成権限を有する者が内容虚偽の文書を作成することをいう。無形偽造とも呼ばれている。虚偽文書作成により作出された文書は、虚偽文書という。
広義の偽造には変造も含まれる。変造とは、真正に成立した文書に変更を加えることをいう。それが作成名義人でない者(作成権限がない者)によってなされる場合(有形変造)と作成名義人(作成権限がある者)によってなされる場合(無形変造)とがある。文書の本質的部分に変更を加え、既存文書と同一性を欠く新たな文書を作出した場合には、変造ではなく、偽造又は虚偽文書作成となる。例えば、判例上、既存の借用証書の金額の側に別個の金額を記入した事案、債権証書中の1字を改めて内容を変更した事案、不動産登記済証の抵当権欄の登記順位番号を変更した事案などについて変造にあたるとされている。また、虚偽の写真コピーの作成を文書偽造と解する判例によれば、原本とは別の文書が作出されることになるから、真正文書に加えた改変の程度が小さくとも変造ではなく偽造になる。
偽造(有形偽造)とは、文書の作成名義人以外の者が権限なく文書を作成することを意味するから、それは、文書の作成名義人による意思・観念の表示の証拠として使用することができないものを不正に作出することにほかならない(したがって、例えば、借用証書を紛失した債権者が、勝手に債務者名義の借用証書を作成した場合には、その内容が正しいものであっても、有形偽造となる。勝手に作出された借用証書は、債権の存在という実体関係を証明する証拠としては使用できないものだからである)。
行刑法は、このような証拠たりえないものを不正に作出する有形偽造を処罰することを基本としている。このように、有形偽造を処罰の対象とし、文書の成立についての真正(形式的真正)を保護する立場を形式主義と呼ぶ(これに対し、文書の内容の真実性を偽る無形偽造を処罰し、文書の内容的真実を保護する立場を実質主義と呼んでいる)。現行刑法は形式主義を採り、公文書及び医師が公務所に提出すべき診断書等といった内容的真実性を担保することが強く要請される文書についてのみ虚偽文書の作成を処罰している(限定的な実質主義の併用)。
現在では、有形偽造とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることをいうと解されている。ここで、作成名義人・作成者をいかに確定するかが問題となる。作成者の意義については、文書に表示された意思・観念が由来する者をいうと解するのが多数説である(意思説)。作成名義人は、文書上、作成者として認識される者をいい、作成者がそれと一致しない場合、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を欠くことになるので、有形偽造が肯定されることになる。このような見地からは、作成名義人の概念は作成者の概念から派生するものであり、作成者の概念を確定することがまず必要となる。

各論

■ 詔書偽造等罪

詔書偽造等罪(154条)は、天皇文書の偽造・変造を公文書偽造等罪よりも、重く処罰する。

■ 公文書偽造等罪

公文書偽造罪(155条1項)は、行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した場合に成立する(有印公文書偽造罪l年以上10年以下の懲役)。
公文書変造罪(同条2項)は公務所又は公務員が押印し又は署名した文書又は図画を変造した場合に成立する(有印公文書変造罪l年以上10年以下の懲役)。公務所又は公務員の印章又は署名(偽造されたものを含む)の記載を欠く、公務所又は公務員の作成すべき文書又は図画を偽造した場合、無印公文書偽造罪(同条3項前半)が成立する(3年以下の懲役又は20万円以下の罰金)。
公務所又は公務員の印章又は署名の記載を欠く、公務所又は公務員が作成した文書又は図画を変造した場合、無印公文書変造罪(同条3項後半)が成立する(3年以下の懲役又は20万円以下の罰金)。


公文書偽造罪・変造罪の客体は、公務所又は公務員の作成すべき文書(公文書)又は図画(公図面)であり、公務所又は公務員が、権限に基づいて、公務所又は公務員を作成名義人として作成する文書又は図画をいう。
公文書の例としては、運転免許証、旅券、外国人登録証明書、印鑑登録証明書などがあり、判例は郵便局の日付印も郵便物の引受けを証する郵便局の文書(このような文書を省略文書と呼んでいる)だとしている。

なるほろ。公文書といえるためには、やっぱり公務員が作成名義人であることが要件だ。
したがって、私人が作成名義人の婚姻届は、公文書偽造罪の対象にならない。

■ 公正証書原本不実記載等罪

公正証書原本不実記載罪(157条1項)は、公務員に対して虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた場合に成立する(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
免状等不実記載罪(同条2項)は、公務員に対し虚偽の申立てをして免状鑑札又は旅券に不実の記載をさせた場合に成立する(1年以下の懲役又は20万円以下の罰金)。
両罪の未遂は可罰的である(同条3項)。
公正証書原本不実記載罪・免状等不実記載罪は、私人の虚偽の申立てによる公文書の間接的無形偽造を処罰の対象とするものである。私人による申立てを受け、公務員による審査を経て公文書が作成される場合であるから、虚偽の申立ては審査によりチェックされることが想定・期待されているため、こうした形態による間接的無形偽造は限定的に処罰の対象となるにとどまっているのである。


公正証書原本不実記載罪の客体は、権利又は義務に関する公正証書の原本である。権利又は義務に関する公正証書の原本とは、公務員が職務上作成し、権利・義務に関する事実を証明する効力を有する文書をいう。原本(一定の内容を示すために、確定的なものとして、最初に作った文書)であることが必要であり、謄本(原本の内容を全部コピーして作った文書)などは含まれない。
また、権利・義務とは財産上のものに限らず、身分上のものも含まれる。登記簿(不動産登記簿、商業登記簿など)、戸籍簿は例示であり、その他、公証人が作成する公正証書、土地台帳、住民票、外国人登録原票などがこれにあたる。
やっぱり、婚姻届は公正証書じゃないよな。
あぁ、なるほろ。虚偽の婚姻届(私文書)の提出(虚偽の申立)によって作成される戸籍は公正証書だから、これが公正証書原本不実記載罪になるってことか。

■ 虚偽公文書作成等罪

虚偽公文書作成罪(156条)は、公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し又は文書若しくは図面を変造した場合に成立する。
本罪は、客体となる文書・図画によって、①有印詔書等無形偽造(無期又は3年以上の懲役)、②有印詔書等無形変造(無期又は3年以上の懲役)、③有印公文書等無形偽造(1年以上10年以下の懲役)、④有印公文書等無形変造(1年以上10年以下の懲役)⑤無印公文書等無形偽造(3年以下の懲役又は却万円以下の罰金)、⑥無印公文書等無形変造(3年以下の懲役又は20万円以下の罰金)に区分される。
虚偽公文書作成等罪の規定は、公文書の名義人など作成権限のある公務員が19)行使の目的で、内容虚偽の詔書等・公文書・公図画を作成する行為(無形偽造)又は真正に成立した詔書等・公文書・公図画に変更を加え内容虚偽のものとする行為(無形変造)を処罰の対象とするものである。

■ 偽造公文書行使等罪

偽造公文書行使等罪判158条l項)は、①詔書偽造等罪判154条)、公文書偽造等罪判155条)、虚偽公文書作成等罪判156条)、公正証書原本不実記載等罪(157条)の各法文に規定された、偽造・変造に係る文書・図画、虚偽作成・変造に係る文書・図画を行使した場合(法定刑は、当該文書等についての偽造罪の法定刑と同一である)、②不実の記録がなされた権利又は義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した場合(法定刑は、当該電磁的記録についての不実記録罪の法定刑と同一である)に成立する。未遂を罰する(158条2項)。

■ 私文書偽造等罪

私文書偽造罪(159条l項)は、行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した場合に成立する(有印私文書偽造罪3月以上5年以下の懲役)。
私文書変造罪(同条2項)は、他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した場合に成立する(有印私文書変造罪:3月以上5年以下の懲役)。
他人の印章又は署名(偽造されたものを含む)の記載を欠く、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造した場合には、無印私文書偽造罪(同条3項前半)が成立する(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金)。
また、他人の印章又は署名の記載を欠く権利義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した場合には、無印私文書変造罪(同条3項後半)が成立する(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金)。
未遂は不可罰である。私印偽造罪・同不正使用罪(167条)が偽造の前段階を処罰する意義を有している。
私文書偽造等罪の規定は、行使の目的による、有印又は無印の私文書・私図画の偽造・変造を処罰の対象とするものである。私文書の無形偽造は、医師が公務所に提出すべき診断書検案書又は死亡証書(160条参照)を除き、不可罰である。一般の私文書においては、内容の真実性を刑罰を用いてまで確保・担保すべき要請が認められず、内容の真実性は作成名義人の人的保証に委ねれば足りるからである。


私文書偽造等罪の客体は、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画である。他人の押印又は署名のある文書・図画(有印私文書・図面)の偽造の方が、それを欠く文書・図画(無印私文書・図画)の偽造よりも重く処罰されているが、それは有印私文書・図画の信用性の方が高いからである(もっとも、署名には記名も含まれるから、無印私文書・図画はごく限られた場合にしか認められない)。
私文書・図画には、外国の公務所・公務員が職務上作成する文書・図画も含まれる。
権利・義務に関する文書とは、私法上・公法上の権利・義務の発生・存続・変更・消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書をいう。判例上、これに当たるとされた例として、送金を依頼する電報頼信紙、借用証書、催告書、弁論再開申立書、無記名定期預金証書などがある。
事実証明に関する文書とは、判例によれば、実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書をいう。裁判例においては、郵便局への転居届、衆議院議員候補者の推薦状、寄付金の賛助員芳名簿、書画が真筆であることを証明する書画の箱書き、政党の機関紙に掲載された「祝発展」という広告文、運転免許の構造学科試験の答案、私立大学の成績原簿、自動車登録事項等証明書交付請求書、私立大学の入学試験の答案、一般旅券発給申請書、求職のための履歴書などが事実証明に関する文書にあたるとされている。

■ 虚偽診断書等作成罪

虚偽診断書等作成罪(160条)は、医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をした場合に成立する(3年以下の禁鋼又は30万円以下の罰金)。本罪は私文書の無形偽造を例外的に処罰するものであるが、それは、客体である公務所に提出すべき診断書・検案書・死亡証書は公的色彩が強く、内容の真実性を担保する公共的要請が高いことによるのである。
虚偽診断書等作成罪は、医師を主体とする身分犯(一定の身分がその成立要件または刑の加減要件とされる犯罪)である。医師が公務員である場合には、虚偽診断書等の作成は、虚偽公文書作成罪として重く処罰されることになると解されている。


虚偽診断書等作成罪の客体は、公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書である。公務所に提出することが法令上義務付けられている場合のみならず、公務所に提出することが予定されている場合を含む。
診断書とは、医師が診察の結果に関する判断を表示して、人の健康上の状態を証明するために作成する文書をいう。
検案書とは、医師が死体について死亡の事実(死因死期等)を医学的に確認した結果を記載した文書を指す(死亡後初めて死体を検案した医師の作成するものに限る。生前から診療にたずさわっていた医師が作成するものは、次の死亡証書である)。
死亡証書とは、生前から診療に従事していた医師が、その患者が死亡したときに、死亡の事実を確認して作成する診断書の一種である(死亡診断書)。

■ 偽造私文書等行使罪

偽造私文書等行使罪(161条1項)は、私文書偽造等罪(159条)、虚偽診断書等作成罪判160条)の各法丈に規定された、偽造・変造にかかる文書・図阿、虚偽の記載をなした診断書等を行使した場合に成立する(法定刑は、当該文書についての偽造罪の法定刑と同一である)。未遂を罰する(161条2項)。

■ 電磁的記録不正作出罪・同供用罪

私電磁的記録不正作出罪(161条の2第1項)は、人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合に成立する(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
公電磁的記録不正作出罪(同条2項)は、人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する公務所又は公務員により作られるべき権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合に成立する(10年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。
不正作出電磁的記録供用罪(同条3項)は、不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、人の事務処理を誤らせる目的で、人の事務処理の用に供した場合に成立する(法定刑は、前提犯罪である電磁的記録不正作出罪の法定刑と同ーである)。供用罪については未遂を罰する(同条4項)。