【アホな最高裁】カラオケ法理の拡張解釈?の巻【まねきTV事件】

「まねきTV」訴訟、最高裁が違法判断 知財高裁に差し戻し


 テレビ番組のネット転送インターネット経由でテレビ番組を海外などに転送するサービスに対し、NHKと在京の民放5社が著作権侵害を理由に差し止めや賠償を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は18日、「公衆への送信に当たり違法」との初判断を示した。著作権侵害に当たらないとした一、二審判決を破棄、損害額などを算定させるため、審理を知的財産高裁に差し戻した。

 問題となったのは、コンピューター関連企業の永野商店(東京)が手掛ける「まねきTV」。テレビチューナーを内蔵するソニー製の映像転送機器を利用者から有料で預かり、機器が受信したテレビ番組を顧客のパソコンなどにネット転送する仕組み。利用者は海外からも日本にいるのと同様にテレビ番組を視聴できる。

 同小法廷は判決理由で、永野商店が預かった機器をテレビアンテナやネットに接続したうえで管理していることを挙げ「番組を送信できるようにしている」と認定。同社と契約すれば誰でもサービスを受けられ、権利者の許諾を得ずに不特定の公衆に送信する行為に当たるとして、著作権法が定める「公衆送信権」を侵害すると判断した。

 永野商店側は「機器を預かっているだけで、番組を転送しているのはあくまで利用者。1つの機器は1人の利用者にしか送信しておらず、不特定の人への送信に当たらない」と主張していた。

 2008年6月の一審・東京地裁判決、同年12月の知財高裁判決とも、機器と利用者が一対一の関係にあることなどから「公衆への送信に当たらない」と判断していた。

 テレビ局側の話 主張が認められ、適切な判断が下された。

 永野商店側の話 一般国民の著作物利用を制限する不当な判決で、今後のネット利用活動に大きな禍根を残す。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E3EAE2E1828DE3EAE2E3E0E2E3E39180EAE2E2E2

最近、最高裁はいい方向で頑張ってるなぁって思ってたのに、最悪な判決を出しやがった。


この記事をみて、
著作権を侵害してるなら、そりゃダメに決まってるじゃん」
とか、思っている一般人は少なくないんじゃないか?
はっきり言ってそんな簡単な問題じゃない。というか、そもそも「著作権を侵害してる」って前提が問題。


今回の事件で「著作権を侵害しているのか?」で争われているのは、送信可能化権公衆送信権のうち自動公衆送信権にはこの送信可能化権も含まれている。著作権法23条1項)を侵害する行為をしたのかどうかってこと。
送信可能化権の侵害する行為とは、ものすごく簡単に言うと、他人の著作物を無断でネットにアップする行為のこと。
ここで重要なことは、送信可能化権を侵害する状態といえるには、その行為がアップロードされた状態が誰もがダウンロードできる状態になっているということ。
したがって、反対に、ネットにアップしても、それが自分しかアクセスできないようなものなら、送信可能化権の侵害にならない。


よく考えてみりゃ、そりゃ当然だ。
例えば、自分で録画した番組を自分だけがアクセスできるサーバーにアップロードして保存しても、誰もそこにアクセスできなければ、自分以外に著作物の利用はされないわけで、このような利用まで制限されると、自分で買ったCDやDVDなんかの利用はものすごく制限されることになってしまう。
が、そんなアホなことになっていない。
著作権法2条1項9号の2イ・ロで、アップロードされたサーバーが、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している」ことを送信可能化(権侵害)の要件としている。
しかも、「公衆によって直接受信されることを目的として」なされていることも必要とされる。1対1の関係でデータを送受信する場合、ここでいう「公衆」とはいえない。


今回の事件で問題とされたのは、テレビチューナーを内蔵するソニー製の映像転送機器を利用者から有料で預かり、機器が受信したテレビ番組を顧客のパソコンなどにネット転送するという行為が、テレビ局の送信可能化権侵害になるかどうかって問題。


送信可能化権が問題になっているのでわかりにくいが、そう難しい問題ではない。
例えば、こういうことだ。

Aは、海外出張のため3ヶ月日本を離れなければならないことになってしまった。しかし、どうしてもドラゴンボール改を観たい。
そこで、友人Xに、DVDレコーダーと、空のDVDを預けて、「頼む。これで録画して出張先に送ってくれ。その代り、3万円あげるし」と頼んだ。
で、友人はこれを承諾して、ドラゴンボール改をDVDに録画して出張先に送ってあげた。


これが著作権侵害になると思う?普通に考えて、友人Xはただの代打的存在で、本人Aが普通に録画して楽しむのとなんら変わりない。


今回のまねきTVはこれと同じ。友達ではなく業者が、Aの録画の代打をするってサービスってだけ。
Xは、録画したDVDを送る代りに、録画したデータを本人Aの専用の機材にアップしただけ。もちろん、このデータはA以外にアクセスできない。



だから、1審、2審ともに、こんな行為が権利侵害になるわけねーって判断した。
逆に、こんな行為すら法が否定するとすれば、録画を代りにやってあげるといったサービスは市場から消える以外ない。違法行為になってしまうサービスは一般の市場にはいられない。
結局、このような状態になって得するのは、著作権者(テレビ局)だけで、われわれ利用者(国民)は、たとえ金を出して自分で買った録画機材でも、その利用行為は制限され、利益を享受する機会は失われてしまうことになる。


そもそも、送信可能化を他人がすると著作権侵害となるというのは、それが不特定多数の者が、無断で著作物を利用できる状態になってしまっているということから、著作権者の利益を害するっていうのが根本にあるからだ。
だから、1対1なんかの場合には、送信可能化権侵害の問題にはならない。そういう理解で、1審、2審は著作権侵害を否定した。



いかなる理由で最高裁が侵害の結論に至ったのか、まだよくわからないが、少なくとも、こういったサービスを提供する事業は今後なくなっていく可能性が大きい。
最高裁が侵害としている根拠として、公衆送信の主体が録画を委託した者ではなく、この録画をした事業者であるということが1つにある。
記事から推測するに、カラオケ法理を適用しているようだ。
しかし、このようにカラオケ法理を拡張解釈して適用すれば、
例えば、最近、本をPDF化するサービスをしている企業があるけれど、このPDFをしている行為主体、つまり複製の主体がこの企業者ということになりかねない。
そうすると、私的複製といえず権利制限の適用外となり、つまり、複製権侵害ということになって、著作権侵害が成立してしまう。


自分の漫画や小説なのに、専門業者にPDF化を有償で依頼すると、その専門業者であるサービス提供者は違法となる。
おかしいだろ。何のための権利制限だよ。

著作権法1条は大切なことが書かれてある。

この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。

「ここでいう『公正な利用』とは,あくまでも一般公衆による著作物の利用を指しこれらの者による一定限度内での著作物利用が自由である一方,他方では著作者等の権利がこれによって制約を課せられることを意味しているものと解すべきである。」とされている(半田正夫=松田政行・著作権法コンメンタール1〔1〜22条の2〕12頁)
最高裁のこの考えは、とても「公正な利用に留意」しているとは思えないし、これでは究極の目的である「文化の発展に寄与」することにも反する。利用者の保護があってこその文化の発展ということを完全に無視していると言わざるを得ない。


一昔前のビデオデッキで似たような問題があった。
ビデオデッキはVHSが勝利したわけだが、我が日本のソニーはベータマックスという規格のビデオデッキを発売していた。
これがアメリカで著作権侵害(正確には寄与侵害だったかな)じゃね?ってなって、ハリウッドが訴えた。
下級審の判断は分かれたものの、最高裁は、侵害しないとした。家庭内で利用されるもので、ただ視聴する時間をズラしただけだろと。公正な利用だろ。ってことで、フェア・ユース!!!!って技を使い、著作権侵害の主張を否定した。
今回も問題になった録画機器(ロケーションフリー)も皮肉なことにソニー製だった。まぁソニーが被告になったわけじゃないが……


今回の件の最高裁はアホだと思うが、これを著作権法のせいと言う人もいるようだ。
たしかに、著作権法はかなり無理があると思うけど、今回に限って言えば、むしろ著作権法上では、問題のない行為、つまり適法な行為となるはずだった。間接侵害規定を定めていないから、こういう法解釈が自然だった。それを、明文にないカラオケ法理という侵害主体性の範囲を拡張する論理をあてはめて、無理矢理サービス提供者を侵害主体と認定したものと推測される(判決文を読んでいないためまだわからないが)。


今回の判決は、今後の新しいサービスに対して悪い意味で影響を与えてしまうだろう。
被告の
「一般国民の著作物利用を制限する不当な判決で、今後のネット利用活動に大きな禍根を残す。」
というコメントは、これを端的に示している。


ロクラク事件はどうなるんだ?このままじゃ…
いや、それよりも最高裁のこういう(著作者保護ではなく)著作権者に対する歪なほどの保護しすぎな態度は、Winny事件でも高裁の無罪を覆すことを意味するかも。
せっかく、制作者(著作者)的に常識な判断が下されたのに、最高裁はこれを覆すということになると、もっと大変な物議を醸すことになるだろうな。そんなことになると、クリエーターは、色々恐れて制作行為の萎縮を生じてしまう可能性が大きい。

■補足
壇弁護士のブログが最高裁のアホさを語っている。
http://danblog.cocolog-nifty.com/index/2011/01/tv-95fa.html