債務不存在確認の訴えの訴訟物と請求原因。の巻

ヤフー知恵袋

債務不存在確認請求訴訟について
訴訟物と請求原因を教えてください
宜しくお願いいたします。

という質問があった。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1451096779

要件事実マニュアル 第1巻(第3版)総論・民法1

要件事実マニュアル 第1巻(第3版)総論・民法1

この要件事実マニュアル1(岡口基一)によれば、

■訴訟物

存否の確認を求める実体上の権利又は法律関係

■請求原因

権利又は法律関係の有無・範囲等について当事者間に争いがあること

とされている。
請求原因が「当事者間に争いがあること」とされているが、もちろん請求原因事実は原告の主張する主要事実であるのだから、これは事実の主張である。
そして、債務不存在確認の訴えでは、そこで主張される債務の発生要件事実の主張立証責任は被告にある。これが債務不存在確認の訴えが、先制攻撃的な性格を有すると言われる所以である。
そのため、原告としては、請求原因において、被告が当該債権を有すると主張していること(権利関係に争いがあること)を、確認の利益を基礎付ける事実として主張立証すれば足りると解されている。


ヤフー知恵袋の回答では、このような訴訟物と請求原因で回答しているものもあったにもかかわらず、ベストアンサーの回答は間違った内容であった。
ベストアンサーに選ばれた回答では

「請求原因」は、その請求をする原因となった事実のことです。
直前に頓珍漢な回答がありますが「当事者間に争いのあること」
は請求原因ではありません。

とされていた。
そして、

債務不存在確認請求訴訟であれば、その債務が存在しないという
具体的事実を書かなければなりません。
たとえば、貸金返還債務の不存在確認を求めるのであれば
既に全額請求している等の債務が存在しないという具体的事実
を書くのです。

と続く。


どうやらこの回答者は、「当事者間に争いがあること」を事実の主張ではないと勘違いして、とんちんかんなことを言っている。
この回答者は「当事者間に争いがあること」自体を評価概念と考えて、請求原因事実はその評価根拠事実と考えているのかもしれない。
しかし、これは間違い。例えば、善意(知らないこと)や悪意(知っていること)は事実と理解されており、それ自体が評価概念とは考えられていない。
もちろん、「当事者間に争いがあること」を主張するために、この事実を推認させる事実を主張することはあるが、それは間接事実であり、主要事実たる請求原因事実とは異なる。


しかも、このベストアンサーとされた回答にはさらに間違いがある。
というか、そもそも

既に全額請求している等の債務が存在しないという具体的事実

という、わけのわからない日本語が書かれている。
請求したからといって債務は消えません。
たぶん、全額「請求」ではなく、全額「弁済」と言いたかったのだろう。


しかし、そのように善解しても、その内容は誤りである。
上でも書いたけれど、債務不存在確認の訴えが先制攻撃的な性格を有すると言われる理由は、そこで主張される債務の存在を訴えられた被告が主張立証しなければならないという点にある。逆に言うと、その債務の不存在について、原告が主張立証する必要はないということである。
したがって、貸金返還債務の不存在確認の訴えにおいて、原告自らその債務の不存在を主張立証する必要はない(司研・手引記載例集22頁参照)。つまり、原告が請求原因で、貸金債務の既払いといった事実を主張する必要はないということである(ゆえに、これは請求原因との関係では単なる事情ということになる)。
ベストアンサーの回答者は、この債務不存在確認の訴えの法的性質の意味を理解しないまま、一般論を展開して誤った回答をしていると言わざるを得ない。


前回に続いて、たまたま見つけた間違ったベストアンサー。
ネットって便利だけれど、使う側の能力も試されるなとつくづく思った。


あと、こういう問題が試験で出たら、このベストアンサーのような誤解をしたまま答案を書く人が結構いそうだ。自分も気をつけなければ……
ジョジョであったな、だっつぁんがアホみたいに教えてくれたセリフが

相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している

ベストアンサーの回答者がまさにこんな感じで、自分が間違ってるのに、正しい回答者の回答内容を「頓珍漢」とのたまう。
きっと、回答中は勝ち誇っていたんだろうなぁ。すでに敗北していたのに……