【司法試験】役立つ参考書――行政法編②【参考書】

行政法の参考書

行政法概説1 行政法総論 第4版

行政法概説1 行政法総論 第4版

行政法概説2 第3版 行政救済法

行政法概説2 第3版 行政救済法

行政法概説 III -- 行政組織法/公務員法/公物法 第2版

行政法概説 III -- 行政組織法/公務員法/公物法 第2版

行政法の基本書は、こだわりがなければ宇賀先生でいいと思います。
ただ結構、試験対策的に不要な部分もあります。使用方法を誤ると、費用対効果が薄くなります。

行政法 第2版 (LEGAL QUEST)

行政法 第2版 (LEGAL QUEST)

そこで、薄いものでおすすめなのがこれです。
上記の通り、行政法は2分冊や3分冊が多いですが、本書は、総論・救済法などすべて含めて300ページほどで収まっています。
しかも、判例中心でよくまとまっています。
また、重要判例は事案と判旨が詳しく載っています。さらに、それ以外の判例も含めて百選の事件番号も付いていて、使い勝手がいいです。


個人的には、行政法の基本書はこれ1冊でいいんじゃないかと思います。
細かい知識より、行政法の基本的な考えを本書で学ぶ方が有益ですし、択一対策としての細かい知識は過去問の復習で参考書(常用を目的とする基本書ではない)と一緒に勉強をする方が効率的だと思うからです。
そういう意味では、宇賀先生の本は復習のときだけ使う参考書として、本書を(常用する)基本書として常用してもいいと思います。


ただ、行政法は基本書よりも、判例中心で勉強する方が試験対策的には望ましいので、そういった意味では、次の本が参考書として有用です(基本書ではなく、あくまで参考書としてなので演習の復習用などに限定して使用しましょう)。

紛争類型別行政救済法

紛争類型別行政救済法

これは試験対策的にはものすごくおすすめです。
行政法の基本書はいいものが多いですが、そのいずれも学問的な体系にそって記述されています。
ですが、本書はその名の通り紛争類型別になっています。
そのため、行政事件において最も重要な行政訴訟の基本的な考え方から始まります。ものすごく(試験対策的な意味で)実践的です。
例えば、冒頭では

 (行政事件の)解決方法として行政訴訟を選択する場合,思考方法として,訴訟法上の問題と実体法上の問題を分けて考察することが有益である。
すなわち,本案前(入り口)の問題として,まず第一に,

  • ①誰が  → 原告適格
  • ②誰の  → 行政庁の特定(被告適確)
  • ③どの行為に対し → 処分生
  • ④どのような訴訟 → 訴訟選択

 を提起するのかを考えることが必要である。

ということが書かれてあります(本書1頁)。
これは行政法の問題では、まずこういうことを考えなければならないので、思考手順としてこのようなことを冒頭で示唆することは有益です。
そして、非常に重要な「処分性」について、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」という判例の立場に関して、

最高裁による処分性の公式を分析すれば,①行政庁による行為(第一要件),②公権力の行使(第二要件),③国民の権利義務を形成しまたはその範囲を具体的に確定する行為(第三要件),④成熟性(第四要件),の各要素に分けられる(条解41頁以下〔高橋滋〕,原田378頁以下)。

このような記述もあり(本書5頁)、これも参考になります。
答案作成上、この要件に従って事実を拾えば、処分性について誤ることはありません(これは条解行政事件訴訟法に載っている要件ですので信頼できます)。
そして、個々の問題でも上記の要件から、処分性の問題でどこが問題となるのかについても触れているので、具体的な問題を通じて理解できます。


しかも、総論的な重要な考えの後には、紛争類型別になっていて、試験対策としての総論と各論がセットになっています。
紛争類型別の項では、内田民法のような小さな設問にそって解説されており、この点も試験対策として有用です。


そして、何と言っても紛争類型別ということで、個々の紛争に関して問題になる法制度についての解説もあり、必ずしもこの点は必要とされる知識ではありませんが、知っていると試験の現場において条文操作がびっくりするくらい早くなります。
一石二鳥どころか、三鳥はいく。本書は最も使える参考書だと思います。
ただ、本書は通読するようなものではありません。演習の復習や、論点をマスターするためのケースメソッドとして設問を解いていくといった、特定の目的を持って使うべきです。
Amazonのレビューではあまり効率のいい使用をしていないものも見受けられますが、要は使い方の問題です。


行政関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)

行政関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)

本書もその名の通り行政関係の事件を中心にしたものです。住民訴訟までちゃんとカバーしています。
何と言っても、執筆者が裁判官ということで、必要以上に学説にこだわったりせず、実務的な記載が中心となっています。もっとも、重要論点では詳しい記述がなされています。
例えば、自己の法律上の利益に関係のない違法の主張制限(行訴法10条1項)に関する「違法」については、

(a) 「自己の法律上の利益に関係のない違法」(行訴10条1項)とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたのではない法規に違背したのにすぎない違法をいう。すなわち,原告は,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられた法規に違反した違法のみを主張することができる。
 ところで,行政処分により私人の権利利益が害される態様としては,?行政処分の名あて人が,当該処分の法律上の効果として,直接その権利を侵害され,義務を課される場合,?行政処分の名あて人以外の者が,当該処分の法律上の効果として,直接その権利を侵害され,義務を課される場合,?ある者が,行政処分の法律上の効果そのものではなく,当該処分に由来する事実行為によって,何らかの不利益を被り,又は,被るおそれのある場合,が考えられる。
 そして,上記?及び?の場合,原告は,原則として,当該処分に係るすべての違法事由を主張することができると解される。なぜなら,これらの場合,当該行政処分の根拠法規は,同法規が定める要件が充足されて初めて,上記?ないし?の者の権利を侵害し,又は同人に義務を課してよいとの趣旨で,各要件を定めたものと解され,その意味で,これらの要件は,原則としてそのすべてが,原告の権利利益を保護する趣旨を含むというべきだからである。
 ただし,上記?及び?の場合でも,例外的に,原告は,原告の権利利益を保護する趣旨をまったく含まない規定に違反した違法を主張することはできないものと解される。例えば,原告は,専ら原告以外の第三者の利益のみを保護するための規定に違反した違法を主張することはできない。
 これに対し,上記?の場合は,原告は,自らの原告適格を基礎付ける根拠規定に違反した違法のみを主張することができると解される。すなわち,この場面は,いわゆる[第三者原告適格」が問題となる場面である。そして,この点につき「法律上保護された利益説」を採るならば,この場面における原告適格の判断に当たっては,当該処分の根拠法規の各規定が原告の権利利益を保護していると解釈できるかどうかを検討することとなる。そして,この検討の過程で,当該処分の根拠法規の各規定は,原告の権利利益を保護する趣旨を含むと解されるものとそうでないものとに区別されるが,これらのうちの前者こそが,原告適格を基礎付け,かつ,原告が主張し得る違法事由を定める規定と解されるのである。
(b) 行政事件訴訟法10条1項は主張の制限について定めるものである。したがって,同項に違反する主張は主張自体失当と扱われ,他に主張がされなければ,請求が棄却されることとなる。
 なお,行政事件訴訟法10条1項の規定ぶりは原告適格について定める同法9条1項のそれと類似し,また,上述のとおり,その判断手法や帰結も類似するが,同法10条1項は原告適格の判断とは直接の関係を有しない。また,同項は訴訟要件について定めるものではないから,同項に違反することにより訴えが不適法となることはない。
ただし,上述の行政事件訴訟法10条1項と同法9条1項の判断の類似性等にかんがみれば,同法10条1項の自己の「法律上の利益」に関係があるか否かの判断に際しては,同法9条2項の考え方が参照されるべきである。

このように、かなり詳細かつ有益な記述がなされています。それで300ページほどでメリハリを付けて行政関係訴訟を網羅しており、上記の通り内容的にもわかりやすくて使いやすいです。
また、近時の重要な論点についても触れられています。例えば、非申請型の義務付けの訴えを認容する場合に、義務付けの対象である処分をどの程度特定すべきかという論点について、

 非申請型の義務付けの訴えは,特定の処分ではなく「一定の」処分をすべき旨を命ずることを求める訴訟である(行訴3条6項1号)から,義務付けの対象がある程度の幅を持っていても許容されると解される。具体的には,問題とされる処分又は裁決の根拠法令の趣旨及び社会通念に従って判断されることになる。

という記載があり、さらに

 是正措置として法令上複数の選択肢が定められている場合にその法令の定める範囲内における一定の幅のある処分を義務付けること(例えば,「建築基準法9条1項に基づく除却命令,移転命令,改築命令のいずれかをせよ。」という形での義務付け)は,対象の特定に欠けるところはないというべきであろう。

という具体例も含めたコメントもあり、論文作成の際の参考になる情報がたった300ページほどですが詰まっています(もちろん、実務的な問題で論文問題には出ないような情報もあるので、実質250ページ程度だと思います)。


本書は、紛争類型別とは異なり、訴訟類型ごとに分類されて、訴訟の時系列に沿って各要件ごとに検討されています。そのため、紛争類型別よりも本書を使って復習する方が要件効果をマスターするのに便利です。
紛争類型別と本書をつぶせば、論文対策どころか、択一対策にもなります。
ぶっちゃけ、行政法は紛争類型別と本書の2冊、それに判例集と過去問で十分だと思います。


条解 行政事件訴訟法 第3版補正版

条解 行政事件訴訟法 第3版補正版

条解シリーズの行政事件訴訟法です。
条解シリーズということで、コンメンタールになっています。
行政事件訴訟法は毎年試験にでます。行政事件訴訟法に強くなることは、すなわち行政法の論文に強くなることを意味します。
また、それだけではなく、多くの判例も掲載されており、択一対策にもなります。
そういった意味で、本書は最強の参考書といえます。
ただ、行政法行政事件訴訟法のみではないということもあり、参考書としてはすばらしいですが、これだけで十分というわけではありません。
とはいえ、本書に載っていない行政事件訴訟法の論点は出ないといえるほど十分過ぎるボリュームで、また行政事件訴訟法以外の論点についても触れられており、復習用の参考書としてはかなり使えます。
もっとも、不要な情報も多いので使い方には注意が必要です。